131話「パラレル集いし姿」
12:パラレル集いし姿
・ラウラの前に現れたのは
ライラ達6人が1つになった姿・パラレルだった。
(・・・これは、僕達が一人になっている・・・!?)
(すごい、あたしだけじゃなくてみんなの心が伝わってくる・・・)
(みんなと心も体もひとつになってるようだ・・・)
(ナイトメアカードじゃない・・・これはパラレルカード本来の力・・・?)
(悪夢なんて目じゃないわね!)
(・・・!みんな、来るよ!)
パラレルの心の中で6人が心を交差させていると、
「な、だ、誰なんだお前は!?」
力を制御できないのかラウラが言葉を放ちながら爪を向けて突進する。
が、直後ラウラの動きが止まった。
「な、何だ・・・!?」
一瞬でラウラの突進は止まり右腕を向けた状態で静止。
どうやらそれ以上動けないようだった。
その緋瞳で自分自身の体を見る。
と、自分の全身を透明で無数の小さな壁のようなものが抑え込んでいた。
「これは、ウォールのカード!?」
しかしパラレルは一切体を動かしていなかった。
だのに次の瞬間には火炎弾の雨が降り注ぐ。
「ぐああああああああああああああ!!!」
全く身動きがとれない状態で軽く1万は超える攻撃を次々と浴び、
両翼が瞬く間に破壊されラウラが倒れる。
「・・・すごい・・・。」
パラレル本人が自分で繰り出した攻撃を見て感嘆の感情しか出せなかった。
「・・・あらゆるパラレルカードをカードなしで
無制限に、しかもいくらでも強化した状態で自由に使えるのか・・・!?
いや、それだけじゃない。みんなの力が1つになっている・・・。
感覚もセンスも最強に均されている・・・!」
パラレルが6つに重なった己の両手を見る。
そこにはまさに無限大の魔力が著しく動き回っていた。
この出力をフルに活かせるならばパラレルカードで
ナイトメアカードを上回る事も不可能ではないだろう。
「そんな馬鹿な・・・!?」
背中から大量の血を放ちながらラウラが立ち上がる。
「そんな馬鹿な事があってたまるかぁぁぁぁぁぁっ!!!」
既に焼け野原と化した地面を蹴ってラウラが駆け抜ける。
が、そのスピードよりも早くパラレルが超強化ステップによって
ラウラの脇を通り抜けて背後に移動する。
しかもラウラの懐から5枚のナイトメアカードを奪っていた。
「!?」
「もう既にあなたの悪夢は終わっている。」
パラレルが5枚のカードを手に取るとそれぞれが、
2枚の希望、獣、雪、吸になった。
「な、ナイトメアカードをパラレルカードに戻した!?」
驚くラウラの姿が少しずつ元の人間の姿に戻っていく。
「僕は・・・それでも僕はぁぁぁぁっ!!」
もはや1枚もカードを持っていない状態でラウラが走る。
「その慟哭に応えよう!!」
パラレルもが走り出しラウラを受け止め一気に跳躍し、
地上6000メートルの成層圏に達する。
そしてラウラに対して回復系カードの治を
無限に発動したまま地面に向かって超高速回転しながら急降下していく。
「パラレルドライバァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
速度マッハ10で雪原に突っ込んでいき、
さらに倍のマッハ20でラウラを雪の中に叩きつける。
その威力に、そこを中心として全方位に雪崩が発生してしまった。
が、それをパラレルは数十倍にも
強化したグラビティの効果で上から押しつぶす。
「・・・・・・・・・・」
そしてパラレルがその中心でぐったりと倒れているラウラの傍らに着地する。
と、同時にパラレルの体が輝き次の瞬間には元の6人に戻っていた。
ラウラに言葉を放とうとしたライラをユイムが止める。
「ラウラくん、いいかな?僕も昔ブランチに操られていたとは言え
実の両親をこの手にかけた。それだけじゃないよ、
それ以外にも多くの無関係の人をこの手で殺してしまった。
お姉ちゃんの両腕を奪ってもしまった。
升子ちゃんにどれだけ嫌われてもお姉ちゃんと何回喧嘩しようとも
どれだけ強く自分を憎んでもね、僕のために笑ってくれる人が居る。
そんな僕でも必要としてくれる、愛してくれる人が居る。
・・・だから僕はその人のためにも
決して自分で自分を終わらせようとはしないよ。
だって自分で自分を終わらせることほど簡単な事はない。
だから生きて、精一杯生き抜いて初めて罪は償えるんだよ。
あなたが自分に罪を感じているのなら、その憎しみの分だけ生きて、
生き抜いて誰かに光を与え続けるんだよ。
きっと誰かとの出会いってそういうものだと思うから。」
「・・・・・。」
ユイムの制止の手が下ろされると改めてライラがラウラの前に立った。
「ラウラさん、天死だって生きてていいじゃないですか。
人間しかいなくても人間は戦争を起こす。
でも天死だからって確実に戦争を起こすとは限らない。
結果的にですが今のところ天死は一度も戦争を起こしていません。
僕達次第では天死と人間が共存出来る未来が来るかもしれません。
だから生き抜きましょうよ。新しい出会いが待っているかもしれませんから。」
「・・・出会・・・か。勝てないわけだよ。」
軽く笑い、ラウラは意識を失った。
それからゲレンデが完全に雪の中に埋没してしまったため
旅行は中断され全員山TO氏に戻ってきた。
ラウラは当然としてライラ達6人も議会によって体を厳重に調べられたが
特に異常はないとされた。
パラレルのカードも今では希望のままだった。
どれだけ厳重に調査してもパラレルの謎は解明されなかった。
議会には顔を出していないが話に聞いた剣人も正確な推測を出せなかった。
「ライランドめ。また俺の予想を超える事をしでかしたか。
これでライランドの方は大丈夫か。
・・・後は火の壁の向こうから超えてきた奴だけだな。」
誰に言うでもなく剣人は3体の獣と共に去っていった。
3月終盤。
結局ラウラもX是無ハルト邸に住む事となった。
「これで泉湯王国トリオ全員集結だね。」
「アルクスがいれば完璧なんだけど。」
「・・・・・」
ヒカリ、シキル、ラウラが揃っていた。
ラウラは少年の姿ではなくかつてと同じ中性的な姿となっていた。
またライラとはリンクが切り離され完全な個人となっていた。
流石にあれだけのことをしたからか元来よりもおとなしくなっていて
ヒカリやシキルが気にかけている。
一方でライラはKYMシップに向かっていた。
ティラやラモンは言わない方がいいと言っていたが
やはりティラの初めてを奪ったことは
知らせておいた方がいいとライラが判断した。
そしてそれを知らせるということはライラは自分の体についても
話す必要があるということだ。これはキリエには話してある。
やはり一度は止められたが流石のキリエもこうなったライラは
どうやっても止められないと学習したのか2度目は止めなかった。
「でもライラくん。どうするの?あたしと結婚する?」
「それにしても同性婚が可能なように法律が変わらないと無理だけど。」
「シュトラさんとユイムさんがキリエさんを通じて議会に
提案しているようですがまだ成果は出ないようです。
・・・でもそういうのは関係ありません。
僕はもう可能な限り隠し事はしたくありませんので。」
それから3人で先代艦長でありティラの父親である
ノーザスター・KYMに面会した。
まず最初に結果を伝えものすごく怒られ、
次に事情を話せば畏怖をされ、最後に
「どのような結果になろうともティラさんを必ず守ってみせます。
ティラさんの初めてを奪ったからではありません。
僕は純粋にティラさんを守っていきたいんです!」
「・・・ライランドくん・・・」
そしてこの言葉を最後にこの二人が会うことはもうなかった。
しかしティラと離れろとは一言も言われなかった。
それは許されたと素直に結べるものではないかもしれないが
しかし確かに3人は前に進むことが出来たのだろう。
一方。
「・・・なるほど。これがブランチか。」
パラディンが断崖絶壁の上から表情を隠してそれを見下ろす。
彼の佇む大地のほとんどが闇に飲み込まれていた。
その闇には泥のようなものが悶え苦しむ人の形を成して鈍く蠢いていた。
その闇の中心には壺のようなあるいは箱のような物体が妖しく輝いていた。
「・・・これは決して見逃していいものではないが果たして・・・」
しかし白銀の青年は数巡の思慕の後に姿を消した。