128話「雪山でドッキリ?」
9:雪山でドッキリ?
・恙無く卒業式も終わった3月のある最終週末。
去年行われたX是無ハルト主催海上パーティの代わりに
X是無ハルトのメンバーは旅行に出かけることになった。
専用スカイカーで山TO氏から6万キロ離れたスキー場が目的地だ。
「でも良かったんですか?僕まで一緒で。」
「何度も言わせないでください。
あなたはもうとっくにX是無ハルトの一員、家族なのですから。」
「でもあたし達までいいのかな・・・?」
スカイカーにはライラ、ユイム、キリエ、リイラ、
シキル、升子、来斗、ヒカリの他にティラ、ラモン、シュトラ、ケーラもいた。
「ご心配なく。
本当はパラレル部のメンバー全員をお誘いしたかったのですが
都合が合っていたのがあなた方だけでしたので。」
スカイカーはスキー場に向かう前に一度巨大な霊園に向かった。
そこでは1年前のあの日に死んでしまったキリエ、ユイムの両親が眠る場所だ。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
姉妹が墓前に正座して目を閉じて祈りを捧げる。
ユイムの表情はやはりどこか苦しそうだった。
「・・・・・・・・」
ライラも祈りを捧げる。
あの船に誘われた際に一度だけ会ったことのある二人。
そして今から自分が嫁にもらう少女の両親。
「・・・それでは行きましょうか。」
キリエが切り上げて12人がスカイカーに戻る。
「・・・ユイムさん、行きましょう。」
「・・・うん、そうだね。」
差し出されたライラの手をユイムは握り二人で墓を後にした。
それから空を走ること数時間。
到着したのがこのランダム雪園だ。
今日はX是無ハルトによって貸切となっている。
「うわあああああああああああああああ!!!」
ライラが雪の壁に突っ込んでいく。
「・・・ライラくん大丈夫?」
ユイムとシュトラが華麗にライラの前で止まる。
「す、スキーって難しいですね・・・。」
「ライラくん運動神経いいからすぐ上手くなるよ。」
「そうよ。絶対吠え面かかせられるんだもの。
だから今の内にリードしとかないとね。行きましょ、ユイムさん。」
二人はライラを気にせずどんどん先に滑っていってしまった。
「・・・あんたって本当に慣れないことにはとことん弱いわよね。」
次いでリイラが見せつけるように上手に滑りながら嫌味を吐き捨てる。
「こ、コラー!!」
流石に怒ったのかすぐ立ち上がってリイラを追いかけるが
きれいにカーブして木々を避けていくリイラに対して
ライラは曲がりきれず真横から大木に激突した。
「き、木の分際でぇぇぇぇ~~~~!!!」
立ち上がったライラが大木を引き抜きにかかったため
慌ててティラとラモンが抑えにかかった。
「・・・ヒカリさんは滑らないのですか?」
「・・・あんたも何やってるのよ。」
雪上。ソリで棒術の稽古をしているケーラにヒカリが突っ込む。
正直ケーラの事は苦手だった。
本人が覚えてるかどうかは分からないが自分はこの人に瞬殺されている。
とりわけ棒状の長い獲物を持っているケーラには決して近寄りたくなかった。
「・・・ふう、ここの紅茶の味も久しぶりですわ。」
ゲレンデのコテージでキリエとシキル、升子が紅茶を飲んでいた。
「升子さんはともかくとしてシキルさんは滑らなくていいんですの?」
「わ、私運動神経よくないんで・・・。」
なるほど。
だからさっきからライラが盛大に自爆するたびに顔を青くしているのか。
「・・・リイラはいつの間にスキー技術を会得したのかしら。
まさか初めてであれだけの滑りを?
昔からすごく運動神経が良かったけどまさかそこまでとは・・・」
升子は来斗にミルクをあげながら幼馴染の滑りに戦慄していた。
「ほら、こうやるんだよ。」
ティラがライラの前で滑ってみせる。
ライラが模倣し、ラモンが後ろからサポートする。
「あまり力まないで。」
「ううう、スキーが難しいですよ・・・」
「あははは。ライラくんって本当にパラレルだとあんなに強いのに
それ以外のスポーツだとからっきしなんだね。」
「僕、さっきリイラが言ったように
得意なものと苦手なものの差がすごくて・・・」
「ならこの1年間で教わった分スキーで返してあげよう。」
「あ、ありがとうござ・・・わわっ!!」
そしてまた盛大に転び頭突きで大木を倒砕した。
「ううう、最近また天死の力が疼いてきてしまって・・・」
「・・・こりゃ練習が恐ろしいね。」
「あたししばらく組手はしたくないかも。」
額を抑えながらライラが立ち上がる。
と、その瞬間だった。
「え?」
前方から雪の波が押し寄せてきた。
「な、雪崩!?」
「いや、雪崩にしては小さいよ!」
「ってことは・・・きゃああああああああ!!」
「ティラさん!!」
雪の波がティラを飲み込むとライラもスキー板を一瞬で解除して飛び込んだ。
「ティラ!ライラ!」
ラモンが手を伸ばすも間に合わず二人は雪の中に消えてしまった。
「・・・・・うう、」
ライラが意識を取り戻すと遥か頭上から日光が差し込むのが見える。
ステップがあれば跳べるかもしれないが今手元にはない。
「・・・ティラさんは!?」
「・・・ううう、」
前方。雪まみれでティラが倒れていた。
どうやら雪崩に巻き込まれて何処か遠くまで流されてしまったらしい。
しかも運悪く縦穴の中に落ちてしまったようだ。
その状況を理解すると途端に体中が痛覚を取り戻し膝をつく。
「そこら中打撲しているかもしれない・・・。」
しかし今は自分よりもティラの心配が先決だ。
「ティラさん!」
ティラを抱き上げる。
見れば足元に血だまりが出来ていた。
様子を見るとティラの左足の太ももに枝が深く刺さっていた。
「ライラ・・・くん・・・・」
「大丈夫ですか!?」
「い、痛い・・・体中痛いよ・・・」
「・・・・・・なら、破滅!」
ライラがその名を呼ぶと瞬時に手元にそのカードが出現した。
「だ、ダメだよライラくん・・・!」
が、それをティラがひったくる。
「け、けどティラさんの痛みをなくせれば・・・」
「だって・・・ナイトメアカードを多用すると
ライラくんの体がおかしくなっちゃうって・・・。」
「・・・それはそうかもしれませんけど、
でも、僕にとってティラさんは掛け替えのない大切な友達なんです!
だから僕に守らせてください!」
「あ、」
「破滅・行使!」
ティラからカードをひったくり発動。
破滅の鎧とハンドガンを装着してティラに発砲。
全身の傷と痛みを殺して正常な状態に戻す。
が、スライトの力でもこの状況を何とかするのは難しい。
周囲を囲む雪壁を壊してしまったら埋もれてしまい即死するかもしれない。
シプレックでも物理的な干渉は破壊しかできないため
この状況を覆すには無力。
しかしライラが持っている最後の1枚、
野獣のカードならば限界を超えた身体能力を無理矢理に引き出すことで
この雪壁を飛び越えていけるかも知れない。
(・・・けど、僕のこの体であのカードを使ってもいいのだろうか・・・?
発動後に天死の力に理性の全てを失ってしまうかもしれない。
・・・いや、それどころか発動してすぐに
ティラさんに襲いかかってしまうかもしれない。
・・・剣人さんから貰った希望のカードで新しいカードを生成するか・・・?
でもきっともう新しい希望のカードは貰えない。
本当に使いどころを考えなくちゃいけない。
・・・でもそしたらティラさんが・・・)
とりあえずスライトを解除して冷静に状況を考える。
しかし二人共カードは1枚も持ってきていない。
地上までの高さはざっと見て10メートル前後。
周囲の雪壁は湿っぽく足場にして登るといったことは出来なそうだった。
運良く縦穴だからこれ以上寒風に晒される事はないが
しかし今でも十分に肌寒い。
「あ・・・」
「これくらいのことはしてあげるよ?」
ティラが後ろから自分を抱きしめた。
防寒着越しでも彼女の立派な胸が背中に当たるのが分かる。
そしてそれを意識すると途端にズボンの前が苦しくなってきてしまう。
それは後ろから様子を眺めるティラにも見て取れた。
「・・・えっと、したい?」
「・・・・・いいんですか?」
「うん、ライラくんだったらいいよ・・・?」
そうしてティラは上着を脱ぎその立派な胸を自分の前にさらけ出す。
同時にライラは下を全て脱ぎ屹立した己の化身をティラの前に出した。
「は、初めてだから変だったら言ってね・・・?」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい!!」
それからは互いにほとんど意識がなかった。
方や性欲に全ての理性を奪われ
方や激痛に全ての感覚を奪われ
見上げた空が青から紫に変わるまでそれは続いた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
恐らく2,3時間くらいは続いていただろう。
下半身に溜まっていた全ての力を使い切ったようにライラが雪に倒れる。
ティラはまるでレイプされたように無表情で空を見上げたままだ。
「・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」
「・・・ううん、いいよ。大丈夫。ライラくんだったらいいって言ったもん。」
衝撃的ではあったがそれ故に今は何も感じられない。
むしろライラの方が心配になるほどの姿を晒していた。
顔を両手で覆い背を丸めて雪の上に倒れたまま動かない。
そのまま助けが来るのを待った。