126話「ヒカリ・トランスミッション!」
7:ヒカリ・トランスミッション!
・海底火山エルデを後にして無事X是無ハルト邸に戻ってきたライラ達。
キリエはいないためメイド達やリイラ、升子が出迎えてくれた。
「・・・あのさ、ライラくん。」
「はい?何ですかシュトラさん。」
「・・・剣人さんってどこにいるの?」
帰ってきてそうそうシュトラがぼやく。
そう言えばどこにカオスを連れて行けばいいのか聞いていなかった。
「えっと・・・学校?」
「・・・あそこ女子校なんですけど。」
「・・・はい、それでもあの時そこで会ったわけですし・・・」
「・・・一度あの人逮捕された方がいいんじゃないの?」
「ま、まあまあ、まだ犯罪は犯してないわけですし。」
「・・・あの人更衣室から出てきたけどね。」
「う、」
ヒカリの声には返す言葉はなかった。
ともあれ金曜の夜中にライラとシュトラ、ユイムの3人は
学校へ向かうことになった。
「ユイムさんまでいいんですか?」
「えぇ~?だってシュトラもライラくんも僕のお嫁さんだよ~?
夫としてはこんな危険場所に二人だけで行かせられないよ~。」
「・・・ユイムさんが夫だったんですか。」
「それにここで剣人さんに恩を売っておけば
あの人ってお姉ちゃん以上の権力のはずだから
山TO氏でも同性婚出来るように法律を変えてくれるかも知れないもん。」
「まあ、唯一同性婚が許されていた泉湯王国も
3か月前に滅亡しちゃいましたからね。」
「え!?何それ聞いてない!」
ヒカリの驚愕の声。
「え?ああ、そうでしたっけ?
ヒカリさんどこまで僕とは意識を共有しているんですか?」
「あの日からですよ!でも記憶までは共有してませんから
一体何があったんですか!?シキルが一緒に暮らしているからもしやとは
思っていましたけどまさか泉湯王国が滅亡だなんて・・・」
声しか聞こえないがやはりヒカリも驚いているようだった。
なのでユイムやシュトラがキョトンとしている前でヒカリに説明することに。
「・・・それってやっぱり・・・」
「ヒカリさんの話を聞く限りその可能性があると思います。」
「ライラくん、お話終わった?」
「あ、はい。何ですか?」
「そろそろ学校着くわよ。」
スカイカーが校門前に着陸して3人が中に入る。
やはり夜の学校というのは雰囲気がある。
「・・・今更ですけど別に夜中に来る必要はないのでは?」
「でもあの人よく夜に出くわすじゃん。」
「ぶっちゃけ日中に見たことないし。」
「僕は、この前お昼に学校で会いましたけど・・・。」
「・・・日が暮れてから女子校に侵入するのもアレだけど
日中に平然と女子校に侵入する伝説の英雄っていうのもアレよね。」
「と言うかこの前の痴漢騒動ってあの人が犯人だったんだ。」
心の中で剣人への好感度を著しく削ぎ落としながら3人が廊下を歩く。
剣人がどこにいるのかは不明だがしかし話の流れが流れだからか
一度更衣室に行ってみることにした。
事前に学校側に連絡をして各場所の鍵は開けてもらっているため
自由に行き来出来る。
夜の廊下を歩きながらライラを通してユイム、シュトラとヒカリが対話する。
「えっと、とりあえず殺してごめんなさい。」
「・・・斬新な挨拶だけど殺されたというよりは
自殺に巻き込まれたっていうか・・・」
「いやいやユイムさん。この子ユイムさん殺すために
あんなことしたんですよ?自分の体を包丁で刺してまで。」
「・・・ううう~耳が痛いよ先輩・・・。」
「全部ヒカリさんが自分でやったことじゃないですか。
いくら性殺女神を倒すことに夢中だからって。」
「けど先輩結局私だけ性殺女神の事知らずに
あれだけ暴れて結局原因作った張本人の一人だったんですよ?
何だか手伝ってもらってあれですけど
今更ながら生き恥晒したくないといいますか・・・」
「何を12歳が言っているんですか。生き恥は晒すものですよ。
人間なら誰しも全く生き恥を晒さずに生き抜くことなんて出来やしません。
いいことも悪いこともその人の未来を形作っていく大切な礎になるんです。
・・・僕もまだユイムさんを騙って学校の皆さんを騙してきたことを
罵るばかりの過去です。ですがきっとその内誇りになる日が来ると思うんです。
あの過ちがあったからこそ
今の自分はあの時の自分よりも成長しているんだって。
・・・もちろん過ちなんてしないほうがいいに決まってますけどね。
でも、過ちに負けて自分を捨ててしまったら
それは今までの自分とこれからの自分との全てを
自ら否定するということなんです。
どんなに醜い姿を生き恥と共に晒していようと生きてさえいれば
自分でその価値が分からなくても
誰かを救える小さな奇跡を生む出会いを引き起こせるんです。
僕だって一年前のあの日ユイムさんがチェンジを使ったあの事件を
起こさなかったら今こうしていなかった。
きっといつまでも自分が許せなくてそのまま終わっていたかもしれません。」
「・・・それ16歳が言う言葉でもないですよ先輩。
でも、大体は伝わりました。
自分が諦めなければ誰かを救える奇跡を起こせる、ですか。
流石既に何回か世界を救ってきている人の言う言葉は違いますね。」
「え?いや、流石にそんな大げさな・・・」
「さて、先輩。そろそろ着きますよ。」
「あ、」
3人が最後の角を曲がり更衣室のある一本道に到達した。
夜の帳が下ろされ完全に生きる者の気配がない世界。
だがしかし夜の静寂にしては妙に静かすぎる。
まるで防音フィルターでも囲っているように。
「・・・・・・・」
3人が前に進む。
しかし何故か距離が縮まない。
「・・・これって・・・」
「明らかに魔法だよね。」
「しかもこんなことが出来るカードなんて聞いたことないよ。」
「・・・確実ですね。」
3人が顔を見合わせ、
「破滅・行使!」
ライラが破滅を発動。あらゆるカードの効果を破滅させる力を込めて発砲。
銃弾が無限に続く一本道の絡繰を見えないガラス瓶のように破壊していく。
そして銃弾が全ての絡繰を破壊して最奥の窓ガラスの中に消えた。
同時に廊下には談笑する声が響いてきた。
「・・・・・・・・・・」
3人が更衣室のドアを開ける。
そこには、
「・・・・・あ」
剣人とキマイラが酒盛りをしながらゲームで対戦をしていた。
しかも明らかに盗撮映像と思しき少女達の行為シーンをモニターで見ながら。
「ば、馬鹿な!?無間と静寂のバリケードを!?」
「剣人さん、あんた何やってんですか。」
慌てふためく剣人を光の速さでユイムとシュトラに逆エビ固めとキャメルクラッチし、
ライラがその額に銃口を突きつける。
「ら、ライランド!?いやいや流石にそれ撃たれたら俺も死ぬって!!」
「大丈夫ですよ、あなたの煩悩だけを破滅させますから。」
「男からそれを取ったら何が残ると言うんだ!?」
「・・・相変わらず馬鹿な奴だ。」
と、そこで初めて懐からカオスのカードが独りでに動いて剣人の前に躍り出た。
「お前、カオス!」
「剣人さん、言われたとおりカオスを連れてきましたよ。
なので早くインストールとオブジェのカードを下さい。
それといい加減警察に出頭してください。」
「前者は構わんが後者は願い下げだな!
と言うかお前そんな軽々とナイトメアカード使うなっていっただろう。」
「あなたがこんな下らない事をするためだけに
力の無駄遣いをしてるのがいけないんじゃないですか!」
「それに動かぬ証拠もあるわけですしね。」
シュトラが盗撮映像を掴み上げる。
「うわ、随分と古い機械。これ平気で数百年以上経ってるんじゃない?」
「そ、そりゃあそうだ。
今から800年前、俺がまだ普通の人間だった時に兄さんから
もらったビデオカメラだからな。」
「あなたのお兄さんって確かムラマサさんでしたっけ?」
「お前、どうして兄さんを知ってるんだ!?
さてはカオス、お前の仕業だな!?何をしたんだ!?」
「・・・少女に命握られてる状態で偉そうにほざくお前は見ていて楽しい。」
「んだとてめぇゴルァ!?」
「喧嘩は後でいいです!とにかく2枚を下さい。」
「・・・ほらよ、」
剣人が渋々懐から2枚のカードを出す。
「そんなに数はないからやることは出来ない。
だからここで使う。お前でなく俺がだ。
お前はいい加減ナイトメアカードを使いすぎている。
いくら体を換えているとしても魂に掛かる消耗までは避けられない。」
「・・・分かりました。」
「で、何を作る?お前の新しい体か?」
「いえ、ヒカリさんの新しい体です。」
「・・・残念な知らせがある。俺はその子を知らない。」
「は?」
「適当に体を作ることは出来るが本人のものとなると
そうもいかないだろう。写真とかないのか?」
「・・・僕は持ってないですね。
シキルさんならもしかしたら持ってるかもしれませんが・・・。」
「いや、お前達その子に直接会ったことがあるなら
カオスを使って記憶を元に虚像を作らせてそれをベースに作れる。」
「あ、それなら・・・」
「なら行くぞ。純闇・行使!」
「きゃ!」
上に乗っかったままの二人を弾き飛ばし剣人の全身に
白と黒の鎧がまとわり付く。
その背中からは同じく白と黒で彩られた蝶のような羽が出現する。
そしてその羽が煙のようにライラの頭を撫でると
もう片方の羽から同じく煙のように光の塊がその姿を形成していく。
数秒もしない内に剣人の隣には一年前に見た
ヒカリの姿と全く同じ外見をした虚像が作られた。
「す、すごい・・・」
「へえ、これがヒカリって子か。あいつに似てるな。
子孫は別の誰かに継がれたと思っていたがもしかしたら・・・」
「剣人さん?」
「いや、何でもない。で、魂はどこにある?」
「僕の頭の中です。」
「よし、なら行くぞ!
造物・移植・双行使!」
2枚のカードが発動されるとまず最初にヒカリの虚像のすぐ隣に
全く同じ姿をした、
されど中身は完全に12歳の少女そのものなオブジェが作られ
次いでライラの体内からヒカリの魂を引き抜きそのオブジェに移植された。
「・・・こんなものかな。」
剣人が3枚のカードを元に戻すと、
「わ、わわっ!」
ヒカリがいきなり転倒した。
「その体に慣れるまでしばらく掛かるだろう。
自由に動かせるようになるまで大人しくしているといい。」
「は、はい!うわあ、本当に元の私の体だよ~~~!!
・・・でも12歳のままなんだよね。はぁ・・・・」
嬉しいのか悲しいのかよく分からない表情でヒカリが倒れたまま喋る。
「すごい・・・こんなことまで出来るなんて・・・」
対してライラ、ユイム、シュトラの3人は驚愕以外の感情を
生み出せず呆然としていた。