120話「生まれ変わった日々」
1:生まれ変わった日々
・春が来た。
視界に広がるのが寒い冬空から温かみのある春空へと変わり
コートやマフラーを寒風に靡かせる人も数を減らす季節。
北の地の果てに咲いたラベンダーを
そのまま形にしたような紫色の制服を身に纏った
少女達が、しかしまだ寒そうにその紫を茶色のコートで隠しつつ
弥生の空の下で校門をくぐって彼女達の学び舎である山TO氏学園に就く。
「・・・・・ううう・・・・・・」
その茶色の波の中一人の少女はいた。
今年に入ってからの転校生で1年生。
本来はスカイブルーのショートヘアなのだが
黒に染め背中まで伸ばしていたその少女は
終業式まであと3ヶ月と言う妙なタイミングで転校してきた。
家の都合・・・と言えば厳密に言ってしまえばあながち間違いでもない。
かと言ってその一言を放って彼女の事情を理解できるものはまずいないだろう。
しかし全てを語ってしまってもなお理解できる者もまたそういない。
それに第一彼女に自分の境遇や事情を容易く
他人に話せるだけの積極性は持ち合わされていない。
何故なら今もこうして全てを知って共に
同じ家で過ごす家族からすら距離を置いて
ただ羞恥のために一人で忍者のように登校しているのだから。
「今日はどこに隠れてどうやって来るんだろうね。」
「いい加減なれてくれて欲しいですけどね。」
茶の群れと弥生の空の間を浮くスカイカーから二人の少女がその群れを眺める。
「そもそもどうして私までここに来なくてはならないのですか?」
「何言ってるの。
相変わらずお姉ちゃんは不登校が身にしみた不良学生なんだから。」
今にも動きそうなドリルのような黄金の髪を揺らしながら紅茶を飲む
彼女のその手足には鎖が繋がれていて
それはもう一人の少女の手首に通じていた。
「僕がいない間ほっっっっっっっっっっとんど学校に行ってなかったんでしょ?
シュトラやMM先生から聞いたんだけど
これはもう保護者である僕の責任だよね。」
「誰が保護者ですか誰が!私はあなたの姉。2つ上でここでは先輩ですわよ?」
「もう2週間程度で卒業するような先輩が学校サボりまくっててどうするのさ。
議会大臣って事で欠席出来る回数が意地悪なほど多いのを盾にして
ひったすらにサボりまくってた悪女が先輩ヅラしないでくださりますかぁ?」
「・・・相変わらずあなたという人は・・・!」
「あ、あの、出来ればここで喧嘩はやめてほしいんですけど・・・。」
二人の少女の間に座る少女が笑顔を取り繕いながら間を取り持つ。
シキル・Pんパ麗℃・最首。16歳。
少し前までは泉湯王国で温泉旅館の女将をやっていた少女だが
泉湯王国自体が2ヶ月前の事件で壊滅してしまったため
無事無職となってしまったために彼女と一緒に新年早々に転校してきたのだ。
この、今にも殴り合いのケンカを始めそうな姉妹、
ユイム・M・X是無ハルトとキリエ・R・X是無ハルトの住む家に。
「あ、見つけましたよ!」
そのシキルが窓から声を上げ指をさす。
と、同時に空中でスカイカーのドアが開かれた。
そして、
「ラ・イ・ラくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!」
ユイムがスカイカーから飛び降りた。
・・・当然鎖で繋がれているため喧嘩相手も道連れに。
「このおバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
「・・・うぇ!?」
二人が飛び降りた先。茶色の群れの中にいたその少女は
自分に向かってよく見知った姉妹が降ってくるのを視界に入れると、
「な、な、何やってるんですかぁぁぁぁ!?」
当然悲鳴に近い声で叫んだ。
「踵・行使!」
カードを使う。瞬時に脚力が数倍以上に引き上げられ
少女は地を蹴って空へと舞い上がる。
「ユイムさん!」
「ライラくぅぅぅぅぅぅぅん!!」
スカートを翻しながらその少女・ライランド・円cryンは
空から降ってきた最愛の人をきっちりと抱きとめた。
「おはよ、ライラくん。」
「お、おはようございます・・・。でもユイムさんあまり無茶は・・・」
空中。まるでキスをするような距離と姿勢で二人は視線を交わす。
が、すぐにただの重力以上のベクトルが二人を地面に吸い寄せた。
「私を忘れないでくださいぃぃぃぃぃぃ!!」
「うわ、キリエさん!?」
当然落ちてきたユイムだけを抱きとめれば鎖で繋がれて
一緒に落ちたままのキリエの重力は全く阻害されることなく
むしろ加速して地面に引き寄せられていく。
と、急にその地面が一瞬で自分の前に移動した。
否。
「何とか間に合ったようだね。」
3人は空中に突如出現した土の壁の上に着地した。
その下には赤羅門・ミドリュエスカラナイトとティライム・KYMがいた。
「相変わらず朝から楽しいことしてるね。」
苦笑いのティラの前に壁がゆっくりと降りて3人が降りると同時に壁が消えた。
そして同時に、
「ユイム!この馬鹿ユイム!!
どうしてあんなことが出来るのですかあなたは!!」
「仕方なかったでしょ!?ライラくんに会いたかったんだもん!」
「今朝家で会ったでしょうが!一人で飛び降りるならともかく!!」
「僕に一人で飛び降りろって言うの!?」
「あなたが飛び降りたいのに
どうして私まで巻き込まれなきゃいけないんですの!」
そして茶の群れ弥生の空の下で再び姉妹での喧嘩が始まってしまった。
慌ててライラが二人の間に割って入る。
「ま、まあまあ二人共。とりあえず移動しましょう?
あ、ティラさんラモンさん。おはようございます。」
「おはよう、ライラくん。」
「相変わらずだね、あんた達は。」
それからスカイカーから普通に降りてきたシキルも
合わせた6人で昇降口に移動。
靴を履き替えてから教室を目指す。
茶色のコートを脱いで紫の制服となればスカート下を
まだ寒いままの風が吹き抜けて体がわずかに震える。
「でもどうしてライラくんそんな格好して一人で学校に来るの?」
「そ、それは・・・」
「どこかの愚妹が彼の姿を使って
散々女遊びをしたから肩身が狭いのでしょう?」
「む・・・。人が言い返せないことを・・・。」
「ユイムさーん!!」
廊下を歩いていると後ろから女生徒が一人駆けてきて
ユイムに後ろから抱きついた。
「シュトラ、おはよう。」
「はい!おはようございますユイムさん。
・・・あ、ライラくん、ティラ、ラモン、シキル、キリエさんもおはよう!」
シュトライクス@・イグレットワールドがユイムに抱きついたまま手を上げた。
「おはようございますシュトラさん。」
「もうライラくんはまだそんな格好してるわけ?」
「だって目立つの嫌ですし・・・。」
「それに前にヒカリがライラさんの姿で
みなさんにご迷惑をかけたので・・・。」
「あぁ~、そういえばそんなこともあったっけ。」
「・・・よく考えたらあたしその時には
ライラくんのあそこを見ちゃってる・・・。」
謝るシキルに呆れるラモンに発情するティラ。
「おはようございます。みなさんお揃いでどうかしたのですか?」
と、今度はケーラ・ナッ津ミLクが
トイレから出てきたのかハンカチで手を拭きながらやってきた。
「おはようございます、ケーラさん。」
「ライランドさん、ご心中はお察ししますが無理をなさる必要はないんですよ?
あれから部活にもほとんど顔を見せませんし・・・。」
「す、すみません・・・。でもキリエさんが言うような
皆さんへの無礼は泉湯王国でのあれだけじゃないんです。
僕は去年ずっとユイムさんを騙ってきてしまいました・・・。
どんな顔をしてパラレル部やクラスの皆さんに
話しかけたらいいのか分からなくて・・・。」
「・・・ライランドさん・・・」
「ねえ、ライラくん。」
と、ティラが寄ってきた。
「あの時と同じ感じでいいんじゃないかな?」
「あの時?」
「そうだよ。
一年前にライラくんがユイムちゃんとしてここに来た時と同じように。
確かにみんなに嘘をついてることには変わりはないかもしれないけど
でもライラくんが自分でいい加減に嘘をついているわけじゃないって
ここにいるみんなは分かってるよ?」
「まあ、ほぼ全ての原因が隣にいますしね。」
「くっ・・・!言い返せないことばかり朝から恨んでるな姉は・・・!」
ティラが話している間にも再び姉妹喧嘩が始まりそうになるのを
シュトラが宥めるのを尻目にティラがライラの顔を見つめた。
「ここにいる誰もライラくんに嘘つかれて迷惑したなんて思ってないよ?
それは多分この先秘密を話すことになるかもしれない中等部の子達も一緒だよ。
確かにユイムちゃんとして過ごした事そのものは
嘘をついて誰かの心を傷つけたかもしれない。
でも、それ以上にみんなライラくんには助けられてるもん。
あたしやラモン、シュトラちゃんにケーラちゃんはもう諦めかけていた
パラレル部の復活をライラくんがしてくれたし、
ユイムちゃんやキリエさんだって
ユイムちゃんをブランチの手から救ってくれた。
シキルちゃんだって結局ああなっちゃったけどそれでも泉湯王国を救ってくれた。
みんなライラくんにはい~~っぱい感謝してるんだよ?
それなのにライラくんが自分で自分を苦しめてたらあたしは嫌だな。」
「・・・ティラさん・・・」
「だから、一人で抱え込もうとしないでね?
ライラくんが困っていることがあったら
み~~~んな絶対に力になっちゃうんだから。
もちろんあたしだっていつでもこの胸を貸すよ?」
えっへんと言わんばかりにティラはその立派な胸を張る。
流石に胸は無理だったがその手を握り、
「・・・ありがとう、ティラさん。それに皆さんも。
すぐに変えられるかは分かりませんが僕はもうなるべく迷わないようにします。
力が必要だったらみなさんに甘えちゃいます。
ですので・・・改めてこれからもよろしくお願いします。」
今出来る最大限の笑顔を見せた。
翌日からライラは髪を自毛に戻し肩で揃えて部活にも顔を出すようになった。




