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パラレルフィスト~交差する拳~  作者: 黒主零
4章:遠き日より来りて
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117話「赤き閃光の翼」

30:赤き閃光の翼


泉湯王国アク・サスファンテ

シキルを救出するためにシュトラとケーラが旅館の中に入る。

当然敷居の関係ないブランチが影のように

次々と現れて二人の行く手を塞ぐ。

「しっっっっっつっこい!!」

「失礼!!」

シュトラの拳とケーラのレンゲルが同時に命中して

一撃で目の前の1体を倒す。

三つ首が千切れ飛び何回転もしながらいくつもの壁を打ち破って行き、

黒い血だまりの中に消えた。

丁度シキルの部屋への近道となったため二人が向かう。

「・・・あとで弁償しなくてはいけませんね。」

「・・・もうキリエさんに

新しい旅館用意して貰った方がいいんじゃない?」

ぶち破った壁の穴を通って二人が走り、シキルの部屋の中に入った。

慌てていたのか隠し通路を隠すための布団は荒く折りたたまれていた。

「・・・普段あの子は丁寧に敷いた布団の下に

体を潜らせて潜っていたのかしら。」

「それも気になりますが今はそれどころじゃありません。

どっちが行きますか・・・?」

「・・・シキルを助けたらすぐにP3で連絡しないといけないから

レンゲル使うケーラさんじゃ難しいと思う。

私が足止めしてるからケーラさんが下に行って。」

「分かりました。」

部屋に入ってくるブランチをシュトラが殴り倒し、

ケーラが隠し階段を下りていく。

ラウラが言ったとおり隠し階段ではカードの効果が使えないのか

手に持っていたレンゲルがカードに戻ってしまった。

が、ブランチもここまでは来れないのか

しばらく階段を降りる自分の足音だけが響いた。

そして長い階段を下りていき扉を発見した。

「シキルさん!」

「け、ケーラさん!?」

扉を開けると部屋の奥でシキルがじっとしていた。

「助けに来ました!早くここから脱出を!」

「は、はい!」

シキルが立ち上がりケーラと共に階段を上り始めた。

一方。

「・・・なるほど。あれがライランド・円cryンか。」

赤い髪の天死が6キロ先で銃口を向けるライラを見やる。

「ハイキュリアスの娘、正の存在か。

あいつの娘どおり正の存在でありながら

まだそのままの状態で生き延びているとは。

私が言えた義理ではないがどうやら怠け者がいるようだ。」

鼻先で笑いその天死が軽く跳躍する。

少し力を入れただけの一足飛びで軽く100メートルは跳躍した。

それはブルーで視力を強化したキリエでも捉えられず

ライラも数秒遅れで気配を感じ取って跳んだ方向を見やった。

相手が空にいるのなら周りの物を巻き込まずに済む。

そう判断すると同時に引き金を引いて銃口から無数に散弾を放つ。

破滅を蓄えた無数の弾丸が6キロ先の空中を制圧するように貫いていく。

が、赤い天死はその弾丸の間を網目を縫うように移動して回避しつつ

3倍のスピードでライラの方向へと進んでいく。

その事実をまだライラは知らない。

だがただの一弾幕で落とせる相手でないことは予想が付いている。

だから無遠慮に引き金を引きまくり秒速3回、

1回で数百発を発射し続ける。

「随分と冷静でそして無慈悲だ。余程この血が憎いようだな。」

赤い天死はヒューと口を鳴らしながらまるでアトラクションのように

それら全てを回避しながら赤い翼をはためかせて

ものすごいスピードでこちらに向かっていた。

やっと視界に入るようになったところでライラが敵の無事を確認して

シプレックの効果で水を操り始める。

緋瞳の温度測定能力を誤魔化すために自分の体温と同じ温度に調節して

相手の死角になるであろう背後に発生させては凝縮していく。

5万リットルもの容量を直径10センチほどにまで凝縮し、

後ろ手に構える。

それが完了すると同時に敵は眼前に到達した。

「アクアキャノン!!」

同時に構えた水の塊を眼前の敵めがけて放つ。

「!?」

トンを超える質量が突如超スピードで放たれ、

赤い天死は即座に変貌させた両腕でそれを真っ向から受け止める。

しかしその威力は想像を絶していたのか翼で風を受けることで

速度を減速していながらも数十キロ以上の速度で後ろに押されていく。

次々と背中で建物をぶち破って貫いて言ってもなお威力を殺しきれず

6キロどころか60キロ以上先まで押されて

やっと受け流すことに成功した。

出力の9割を殺したにも関わらず水の塊は地面に命中すると

まるでミサイルでも直撃したように大きなクレータを発生させた。

その衝撃で何枚もの羽が千切れ飛んだ。

「・・・これだけの破壊力、ハイキュリアスでは考えられなかったな。」

「父さんを知っているんですか!?」

直後眼前にライラが飛来して銃口を向けつつ言葉を投げかけた。

「・・・瞬間移動か。

詳しくないがパラレルっていうのはそういうのも出来るのか。」

「質問しているのは僕です!父さんを知っているんですか!?」

「ああ、もちろん知っているよ。

ハイキュリアスはもうひとりの私といってもいい存在だ。」

「・・・え?」

「何も聞いていないのかもしれないが天死と人間のハーフは

例え生まれたのが一人であっても必ず対になる存在が

この世のどこかで発生する。

私とハイキュリアスは対の関係にあたる存在。

言ってみれば双子のようなものだ。

ハーフの方が自分の性別を確立させることで選ばれなかった方の

性別をもう片方が強いられる。

だが大抵の場合はそのもう片方がハーフを殺して自分が本物となる。

何故ならそうしなかった場合気味の悪いことに対となった二人で

交配をしなくてはならないからな。そうすることで純潔の天死が生まれる。

・・・私もそうしたかったがあいつは

その前に人間の女と子供を作ったからな。

殺す必要が無くなった。そういう意味ではお前に感謝しているよ。」

「・・・父さんはどうなったんですか!?」

「さあ?20年前に会って以来姿を見ていない。

・・・尤も私がここに駆り出されお前と対峙している

現状から大凡の見当はつくがな。」

「・・・答えてもらいます。天死が何を企んでいるのかを!」

ライラが発砲する。破滅を込めた弾丸が赤い天死に迫る。

が、緋瞳によりその弾道が計算され軽く首をかしげるだけで

掠りもせず通過していった。

「無駄だよ。カードでは天死わたしには通用しない。

記憶を巻き戻すといい。

このご時世お前の父親がカードを一度でも使ったことがあるかを。」

「・・・・!」

確かに父親は一度たりともカードを使ったことがなかった。

少なくとも使っているところを見たことがない。

いつも母親が代わりに使っていたような気がする。

「天死には魔力への強い耐性がある。我々には滅多に通用しないよ。

まあ、さっきのは想定外だったけどね。」

「だからといって!!」

再び引き金を引き絞り至近距離で弾幕を張る。

先程と違って距離は2メートル未満。

弾丸が拡散した時点で前方全てを高濃度で面制圧できるだろう。

しかしそれでも赤い天死には掠りもしなかった。

「どうして・・・!?」

「本能しかない他の天死ならともかく理性も知性もある私が

緋瞳を使えばこの程度造作もない。

・・・ライランド・円cryン。1つ取引をしよう。」

「取引・・・!?」

「私は別に人間を滅ぼすつもりはない。

ただ知ってのとおり我々天死はブランチによって生存戦争に負け

もはやこの世界に居場所がない。

だからこの国を、泉湯王国アク・サスファンテを我々の居住にさせてもらいたい。」

「なんですって・・・!?」

「そうさせて貰えれば我々は不用意に人類を襲わないことを約束しよう。

・・・尤もそこで隠れて見ているブランチが関与してきた場合まで

確約することは出来ないが。」

「・・・僕一人の所存で決められることではありません・・・。」

「だろうね。でも君が望めば不可能なことではないはずだ。

運良く君の近くには政府議会の幹部の一人がいる。

そこから通じて他の幹部にも君が望んで

今私に向けている銃口それでも向ければ了承するはずだよ。」

「そんな脅迫みたいなことを僕はできません!」

「だろうね。けどそしたらどうする?

私が望めば今晩にでもこの国に眠る残り50体ほどの天死が

一斉に他国を襲い夜ごとに人類を殲滅していくよ。

そうなると一週間は持たないだろう。

実際に我々天死という種が滅びかかっているのは事実なのだから

他の天死達も喜んで男は皆殺しにして女には種を植え付けるだろう。

手足を剥ぎ落として新たな個体を産み落とすだけの機械にだって出来る。

そして我々はひとり残らず君が

どちらを選択しても構わないと思っている。」

「・・・・・くっ・・・・・!」

正面を向いたまま背後を見やる。

脚力を強化させたキリエがこちらに向かっているのは見えるが

ここへ到達するまではもう少しはかかりそうだった。

「他人に運命を左右させるのは感心しない。

君自身の頭で判断するんだ。ゆっくり考える時間はあげないよ。

人間は時間を与えると何をしでかすか分かったものじゃないからね。

君に出来ることはこの国を見捨てて我々と共存の道を辿るか、

自分のわがままで世界を滅ぼさせるかの二択だよ。」

「・・・それ、僕が返事をしなかったらどうなるんですか?」

「君の仲間を殺す。丁度ここへ向かおうとしている少女がいるようだ。

600メートルほどの距離だ。彼女が向かうにはまだ2分はかかるだろう。

その2分で私なら彼女を16回は殺せる。

・・・ああそうそう。言い忘れていたけど風行剣人は君の手で殺してくれ。

あれはあらゆる取引にも応じずにこの800年で100体以上の天死を

殺し続けてきた厄介すぎる敵だからね。

それでもまだ同じ人類である君相手になら油断を見せてくれると思う。」

「・・・残念ながらあの人はもう僕を討伐対象とみなしていますよ。

僕も天死であることが彼に知られてしまったんでね。」

「そうか。なら仕方ない。共に彼を始末しよう。

私と君、知能と理性のある天死が二人掛かりで

挑めば彼にも勝て得るだろう。」

「・・・ですが・・・!」

その時だった。

「随分と面白い話をしているようだな。」

「!?」

突如まばゆい光が現れたと思った次の瞬間には

赤い天死を背後から黄金の剣が貫いていた。

光の中には光道タキオンのカードがあってそれが中心に輝いていた。

「・・・風行剣人・・・!」

赤い天死の背後には剣人が立っていてキマイラの黄金の剣で

その背中を貫いていた。

「天死は殺す。少なくとも人類に仇為す存在は滅ぼさせてもらう。」

「い、いいのか・・・!?私をこうして殺しきらないということは

他の50体以上の天死が目を覚まして一斉に襲い掛かってくるぞ。

如何に貴様といえど50体を同時に相手すれば・・・」

「もうそんなにいない。全部倒してきた。」

「・・・何!?」

「この光道タキオンのカードは時間停止のカードだ。

お前がライランドに関わったのを感知してから発動して

ここまでやってきて眠ったままだった全ての天死を倒してきた。

残るはお前達だけだ。」

「剣人さん・・・やっぱり僕まで・・・」

「・・・それはお前次第だ。その銃でコイツを撃て。」

「え・・・?」

「こいつはお前の父親の分身のようなもの。

だが確実に人類を滅ぼすことのできる存在でもある。

そしてそれはお前にもいい当てはめられる。

だから俺にお前の可能性を見せてみろ。

自分は人類を滅ぼしたりしないと。

ブランチに与して人類を滅ぼす存在であれば例え父親であっても

その手で倒してみせると証明してみせろ。」

「・・・僕は・・・」

「迷うな!迷えば心に油断が生まれるぞ!」

「違う!それは違います!人間だから迷うんです!

僕は、僕は人間だ!だからその人や剣人さんのように

なんでも一発解決なんてできません!」

「・・・ライランド・・・!」

「・・・ぐっ!!」

剣人が一瞬剣を握る手を緩めた瞬間に赤い天死は

剣が刺さったまま自ら体を横にずらして右に倒れた。

左腕と左翼が失われたが構わずその場から全速力で飛び去った。

「待て!!」

剣人がまたタキオンのカードを発動させた。

「・・・・・」

移動する前に一度ライラの姿を見やるとチェンジのカードを

そのポケットに入れてからその場を去っていった。

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