116話「シキル救出作戦」
29:シキル救出作戦
・泉湯王国。
来斗はもちろんミネルヴァとラットン、升子は初めて来る。
「・・・酷いこと言うけどさ、ちょっとここ狙われ過ぎじゃない?」
シュトラが口ずさむ。
4年前に大寒波に襲われそれから性殺女神に2度襲われ
そして今度は天死に巣窟にされ4度目の災難である。
その度に国民は性別を殺されたり干物にされたり
天死に八つ裂きにされたりと酷い有様であった。
現在も水路自体は復活していたがそこら中に死体が浮かんでいたり
道端に倒れていたり壁に突き刺さっていたりと地獄絵図だった。
半ば諦めかけていたことだがこれでは間違いなくこの国で
ユイムとの結婚式を挙げることは難しいようだった。
(・・・キリエさんを通じて山TO氏でも
同性婚出来るようにして貰えないかな?)
「ラウラさんはどうして無事だったんですか?」
「僕にはテレポートやバキュームがあるからいざって時は
逃げられる。あいつらは夜行性だから日中は国の外にも出られるし。
ただ、迂闊だったのが奴らの中には人間そっくりの奴もいたんだ。」
「人間そっくりの天死?」
「そう。他の奴らと違って僕達と変わらない人間そっくりの姿で
任意で翼を生やしたり爪を尖らせたり出来るらしい。
そいつは夜行性じゃないし理性もある。
それに僕に他言無用の呪いをかけたのもそいつだ。
・・・あいつは手ごわい。
普通の天死なら理性がないから何とかやり過ごせる場合でも
あいつが司令塔になって他の天死を指揮できるんだ。
そうして地下塹壕に逃げていた人達も簡単に見つかって・・・。」
「・・・きっとその天死は僕と同じで人間と天死のハーフなんだと
思います。僕も僅かな間でしたら理性を保ったまま
天死の力を使えましたから・・・。」
それからライラ達はシキルの隠れ家を探す事にした。
本来なら泉湯王国に巣食う天死を殲滅したいのだが
1体相手でもライラがナイトメアカードを2枚とも使って
何とか倒せるレベルだ。
そんな怪物に集団で襲われたら命がいくつあっても足りないだろう。
日没まであと2時間。その間にシキルを救出して脱出。
政府議会に申請して後日天死の殲滅作戦を行うだろう。
「シキルさんをバキュームで呼び寄せられないんですか?」
「あの部屋を改造してカードの効力が届かないようにしている。
だから無理。直接行かないと・・・。」
敵に見つかってはいけない隠密行動のためか
升子、来斗、パルフェ、ティラ、
ラモン、ユイム、ラットン、ラウラは国の外に待機することとなった。
ライラ、シュトラ、ケーラ、キリエ、ミネルヴァが潜入する。
シキルを見つけて部屋の外に出たところでP3でラウラに連絡して
バキュームで回収、待機していたスカイカーで一気に脱出と言う手筈だ。
「ユイムさん、苦しい思いをさせてすみません。」
ユイムはいつ暴走するか分からないため
升子、ラモン、ラットンに押さえ付けられていた。
「ううん、大丈夫。ライラくんも気をつけてね。」
そうして潜入チームが旅館までの道を向かった。
「・・・でもどうしてこの人達まで呼んだの?」
ラットンがラウラを見る。
「・・・バキュームはただ誰かを引き寄せるだけのカードじゃない。
複数を引き寄せるなら一人一人対象を取るよりも
まとめた方が楽だから・・・。
ユイムを呼ぼうとしたら近くにいたその二人も一緒になっただけ。」
一方。
水路をカヌーを使って進む5人。
「じゃあ、天死は日中はほとんど行動できないと見ていいのね?」
「はい。天死の緋瞳と呼ばれる目は視力が良すぎて
太陽光の下では眩しすぎてほとんど何も見えないんです。
なので今まともに動けるのはその理性を持った天死だけ。
1体だけならスライトとシプレックの同時発動で何とかなるはずです。
なので今はスピードを優先させましょう。」
という事でカヌーに乗りグリップを発動させて握力を強化したシュトラが
オールを漕いで超スピードで旅館まで向かっていく。
既にライラは2枚のナイトメアカードを
発動させていて臨戦態勢に入っている。
キリエやケーラ、ミネルヴァもいつでもカードを
発動出来るように身構えている。
しかしその警戒状態でいても旅館に着くまでの間敵襲は一切なかった。
死体以外の気配はなくブランチも天死もまだいないようだ。
夜行性の天死はまだ大半が眠っているとしてブランチは自分達が
ここへやってきている事もその目的も気付いているはずだろう。
それでいて移動中に一切行動してこなかったということは
考えられることはそういくつもないだろう。
カヌーを置いて旅館に到着してその敷地に一歩踏み入れた瞬間。
「やはり来たようだな。」
無数のブランチが出現した。
「お初にお目にかかるな、ブランチ。」
「最強人類ミネルヴァ・M・Hル卍か。
やはりステメラは切っておいた方が良かったようだな。」
「クソ親父によくも手を貸してくれやがったな。
あのクソ親父も力がなければ
まだただのゲスで済んでいたかもしれなかった。」
「これは異な事を。我々はそのような世界に反感を抱いたゲスに
力を与えて人類を自滅させるのが目的だと伝えたはずだ。」
直後。そのブランチの顔を破滅の弾丸が撃ち抜いた。
「ユイムさんもシュトラさんもシキルさんもヒカリさんもラウラさんも
貴様達の駒となるためにその純粋な想いを募らせたわけじゃない!
ステメラさんだって少しは人類のことを考えていたはずだ!
誰もお前達の駒となって人類を自滅させることを望んでなんていない!!」
「・・・果たしてそれはどうかな?」
「・・・何・・・!?」
しかしそれ以上ブランチが話すことはなく新たな戦闘形態として
ケルベロスのような姿となってライラ達へと向かっていく。
「くっ・・・!」
「ライラくんは下がってて!」
シュトラがブランチの突進を受け止めて
ジャーマンスープレックスを叩き込む。
「ライランドさんは天死に備えていてください!」
ケーラがレンゲルで攻撃を捌きつつ的確に穿っていく。
「オラオラオラオラオラオラァッ!!最強の力思い知れ!!」
ミネルヴァが徒手空拳で文字通りブランチを千切っては投げまくる。
しかしどれだけ蹴散らしてもブランチの数は減らない。
「このままじゃ消耗戦に・・・」
「ライランドくん!今の内に旅館に行ってシキルさんを!」
「いえ!皆さんと離れるわけにはいかないんです!
ブランチが前線に出る目的は十中八九時間稼ぎ。
消耗戦に持ち込み僕を前線から離すのが目的だと思います!
そしてわざわざそうする理由は・・・!」
ライラが遥か遠方を睨んだ。元の姿なら見えていただろう数キロの先。
そこに翼を持った女性が立っていた。
燃えるような赤い長い髪を翼と共に風に靡かせている。
そしてその色と同じくらい真っ赤な瞳を尖らせてこちらを見ていた。
「・・・あの天死がこちらを狙っているからです・・・!」
ライラが見えない標的に銃口を向ける。
それで状況を理解できたのかキリエがその方向に意識を集中させた。
僅かに発動させたブルーによって視力を大幅に上昇させる。
「いましたわ・・・!人間そっくりの天死が・・・!
大体6キロ程度前方にいますわ!まっすぐこちらを見ているようです!」
そう、その天死がこちらを狙っているため
もしライラがこの場を離れて旅館の中に入ってしまったら
すぐに飛来して他の4人を殺してしまうだろう。
しかしかと言ってライラが周囲を囲むブランチ相手に攻撃しても
やはりその隙を突かれて奇襲を受けてしまう確率が高い。
力を完全に制御した天死の速度なら6キロ程度5秒もかからないだろう。
だからライラはこの場を離れるわけにはいかないのだ。
「・・・ならば私がシキルさんを連れてきます。
一度行ったことのある場所なので。」
ケーラがブランチを蹴散らしながら少しずつ旅館に近付いて行く。
「気をつけてください。」
「・・・ええ。」
今対峙しているブランチを倒すと速やかに
ケーラが旅館の中に入っていった。
「シュトラも行きな!ケーラ一人じゃ厳しいだろう!」
ミネルヴァがブランチを蹴り倒しながらシュトラの襟を掴んで
ケーラの後を追わせるように投げ飛ばした。
「分かりましたけどもっと穏便にぃぃぃぃ~~~~!!!」
シュトラは先を走るケーラの傍まで投げ飛ばされ
そこでギリギリで着地して併走を開始した。
「ミネルヴァさん一人でブランチの相手大丈夫ですか!?」
「あたしを誰だと思ってるんだい?一騎打ちなら人類最強の女だよ。」
片手ずつで2体のブランチを持ち上げて投げ飛ばすミネルヴァ。
シキルを迎えに行くケーラとシュトラ。
天死を迎撃する為に構えるライラとキリエ。
日没まで1時間。