112話「準決勝前夜」
25:準決勝前夜
・ライラがパルフェと眠っている間。
「な、な、な、な、何をしてるんだあいつらはぁぁぁぁぁっ!!!」
当然ミネルヴァが怒り狂っていた。
「明日は準決勝と決勝があるっていうのにどうして眠っていられるんだぁぁぁぁっ!!」
「落ち着いてくださいミネルヴァ姉様。
キリエさんから聞いていないのですか?
ライランドさんから魔力を提供される話を。」
「聴いてるよ知ってるよ聞き及んでいるよ!!
けどセックスなんざ一晩で終わらせろよ!?
なして24時間以上も掛かるんだ!?」
そんなミネルヴァとケーラは他のメンバーとともにジョギングをしていた。
最初はミネルヴァはいつもどおり座って各メンバーの体調管理などを
担当していたのだがこのままのミネルヴァを放っておいたら
確実にユイムの部屋に突入してライラとパルフェを
引きずり出してくるに違いないと予想した全員からストレス解散も兼ねて
一緒に走らせているのだがさすが全国区のプロ選手。
軽いジョギングでも他のメンバーが何とか背中を追えるレベルに速かった。
「オラ!遅いぞ!もっと走れ!!」
「そ、そんなこと言っても・・・」
「ちょっとペースが・・・」
「し、師匠ってば足加減を・・・」
「ティラは胸に余計な脂肪つけすぎ!
ラモンは体格いいのにそれを無駄にするな!
シュトラは諸々何かが足りない!
ってかラットンはどこ行ったァ!?」
ミネルヴァが振り向くとラットンはX是無ハルト邸の2階ラウンジで
キリエと共に紅茶を飲んでいた。
「何してんだあいつ!?」
「私は正統派パラレル選手。格闘技の選手じゃないの。」
「パラレルカードは100年前からずっと由緒正しい格闘技だ!」
「どこもかしこも姉妹喧嘩は見苦しいものですわね。」
その隣でキリエが優雅に紅茶を飲む。
その後ろでこっそりこっそりとユイムが自分の部屋から
バイブを持ち出そうとしているのだが当然キリエに見つかって
青空の下で姉妹大戦が始まってしまったのだった。
「・・・あのー・・・」
「ん?」
声。ジョギングでちょうど家の前を通ったケーラが
それに気付いて門前まで行くと宅配業者がいた。
古臭い制服に身を包み帽子を目深に被っていて顔は見えない。
しかし自分よりも背は低い。
この時代専用のコールを購入すれば一瞬で荷物が運ばれてくるため
宅配業者はほとんど絶滅しているというのに今目の前では
その絶滅危惧職種が荷物片手に立っていた。
きっとシュトラやティラだったら間違いなく写メを撮っていただろう。
ケーラもコスプレか何かかと思ったが
まさかそれを顕にする訳にもいかないため
門を開けて業者の前に出た。
「お届けものです。」
「あ、はい。と言っても私はお邪魔しているだけで
X是無ハルトの人間ではないので呼んできますね。」
「ああいえいえ。大丈夫です。これを。」
と、半ば無理やりに手渡された小包。
差出人はシキル・Pんパ麗℃・最首となっていた。
「シキルさんから・・・?」
「確かにお渡ししましたので。」
そうして業者がケーラの手を取りその甲に判子印を押した。
「あ・・・」
「・・・では。」
そうして業者はスカイカーに乗って去っていった。
「・・・とりあえず皆を集めておきましょうか。」
ケーラが手の甲に押された印と手荷物と
庭園で鬼のように暴れまわる2組の姉妹を見比べながら門を閉めた。
・食堂。
未だ眠り続けるライラとパルフェ以外のメンバーを集めて
シキルからの手荷物が開けられた。
新聞紙で何重にも巻かれてそこから出たのは2枚のカードだった。
「これは・・・」
それは選と無のカードだった。
かつてシキルとヒカリが使っていたナイトメアカードだったが
そこにあったのはパラレルに戻された2枚だった。
また、手紙も同封されていた。
「太陽の下からお送りします。
すっかり時間が経ってしまいましたが皆さん、お元気ですか?
けっして応援に行けない私を許してください。
テレビでみなさんの試合を見ています。その2枚をお役立てください。」
と書かれてあった。
「へえ、ちゃんとナイトメアカードからパラレルカードに戻れたんだ。」
「シキルちゃんも元気でやってるみたいだね。」
「・・・・・・・・」
「ケーラ?どうかしたの?」
「・・・・・・いえ、私の思い過ごしならいいんですが。」
ケーラが手の甲と手紙を見比べては押し黙ってしまう。
それからキリエがこの2枚のカードについて調べてみる。
キュアの方は相手に二者択一を迫るカードで
例えばカードの発動と呼吸のどちらかを迫れば
相手はカードを発動している間呼吸が出来なくなると
言った使い方が出来る。
用途はかなり限られているが使い方次第では役立ちそうだ。
もう1枚のエターナルは対象を選ぶと発動中
その対象は外からの影響を一切受けなくなるようになる防御系のカードだ。
キュアと比べてかなり使いやすい反面それだけでは
あまり意味がなくやはり使いどころを選んでしまうカードだった。
「・・・なんかどっちも使い方がパッと思いつかないね。」
「まあナイトメアになると強力なカードは
どれもパラレルだと使いにくいカードなのかな。」
「で、誰か使いたい人いる?私はいらないけど。」
なので当然誰も使いたがらない。
決して戦力に満足しているわけではない。
パルフェにしたように全員が大幅な魔力共有でパワーアップできれば
そりゃ万々歳だった。だが当然そうもいかない。
カードは性能も大事だがそれ以上に自分の戦術との相性が何より大切だ。
例え100人の相手を圧倒できるような強力なカードであっても
自分との相性が悪ければ持っていてもデメリットの方が多い場合もある。
逆に一人の相手を少し苦しめる程度の威力しかないカードであっても
自分との相性が良ければ間違いなく前者のカードより採用されるだろう。
試合で使えるカードは10枚だけ。1ラウンドで使えるのは3枚だけ。
その限られた状態で、しかも全国大会準決勝という場面で
使い慣れていないカードを手札に入れるのはあまりに分が悪い。
ティラが2枚も枠を使ってチャージとダイダロスを活用する戦術を
身につけて問題なく実戦レベルにまで慣らすのに2ヶ月かかったほどだ。
全員で相談した結果やはりこの2枚は採用されないことに決定した。
「・・・ですがどうしてシキルさんは
この2枚を送ってきたのでしょうか?」
「へ?だからパラレルに戻って全国で活躍してる私達を
応援するためじゃないの?」
「・・・けどこのような使い勝手の悪いカードを2枚も・・・」
「あれ?ケーラさんひょっとして怒ってる?
ダメよケーラさん。
いくら使えないカードだからって人の好意を無下にしちゃ・・・」
「・・・いや、そういうわけではないのですが。」
「・・・ケーラ、あんた何か気がかりでもあるのかい?」
流石に様子がおかしいと思ったのかミネルヴァがケーラの肩を叩く。
「・・・・・何かおかしいんです。
線路自体はまっすぐでも行き先が違うというか、
見える景色は何一つ変わらないのに
向かっている方角が違うというか・・・」
「・・・ケーラ、今は試合前だ。少し落ち着いてきな。」
「・・・分かりました。」
ケーラが与えられた部屋に向かうと入れ違いで
ライラとパルフェがやってきた。
「えっと、皆さん。おはようございます。」
「・・・あんたなぁ、もう5時すぎだぞ。
大事な試合の前日だっていうのに何発やってんだああん?」
「えっと・・・」
「ご、50発くらいかと・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
パルフェの告白にはさすがのミネルヴァも閉口せざるを得なかった。
もちろん数秒後に激が飛び二人揃ってジョギングをさせられたのだった。