107話「二人の強さ」
20:二人の強さ
・全国大会1戦目。
ティラに向けて放たれたフリーズの凍結とフレイムの火炎弾。
その両方をラモンは腰を入れて大の字で受け止めた。
「ぐううううううあああああああああああ!!!」
「ラモン!?」
「ティラ!2回目を!」
ラモンに言われティラは涙目ながらもすぐに2回目のチャージを発動する。
「・・・ぐっ!!」
膝をつき失神寸前になり倒れかけるラモン。
さすがにこの行動には相手方も動揺せざるを得なかった。
しかしそれはラモンに対しての心配が由来ではない。
どうしてあんな行動をとったのかが気になるのだ。
まるでこちらの戦術がバレていたような対応だった。
だから恐らくラモンが使ったカードはこちらの手を読めるカード、
それでいて物理的な干渉手段を持たないカードだと推測。
少なくともタキオンのカードではないだろう。
「ラモン!」
「だ、大丈夫・・・・。」
数秒休んでからラモンが立ち上がる。
そして再びブレインのカードを発動させた。
タキオンと違って自分の動きまでスローになるから高速移動ではない。
だから出来ることは限られているけれど
しかしタキオンと違って時間制限はない。
それでも脳をフル活用するため激しく疲労するし消費魔力も安くはない。
だが、自分達のように徒手空拳での接近戦を得意とする選手にとっては
決して悪い相性ではない。
(・・・正面右に13度29メートルの位置にあの美男。
正面左に7度41メートルの位置にあの美女。
美男の右手と目がこちらに泳ぎつつある。
右手の魔力が躍動している。
フレイムを使う前触れかな。まだ発動を解除していない。
このままだと2秒後に発射されて3秒で命中する。
けど今私の後ろにはティラはいない。スライディングで回避できる。
美女の方は・・・フリーズの挙動までは読めないね・・・。
けどまだ自分を目で追えていない。
そこまで動体視力はいい方じゃないみたい。)
それを察するとラモンはそのまま前進してやがて発射された
火炎弾をタイミングを合わせてスライディングで回避。
(・・・まだ気付いていない・・・!)
アレキサンドリアの目を見ると火炎弾の方にしか行っていない。
その下をくぐってアレキサンドリアに
接近している自分にはまだ気付いていない。
立ち上がってアレキサンドリアに進むと
そこで初めて彼の目が自分を捉えた。
だがもう遅い。
フレイムのカードを廻し蹴りで叩き落としその顎に膝蹴りを叩き込み、
背後に回って背中を蹴りつけてうつ伏せに倒し
キャメルクラッチしてからブレインを解除する。
「アレク!!」
ロシナンテが時間を取り戻して相方が
キャメルクラッチされている場面に気付く。
そして状況を把握して思索した。
ストップでは生物であるラモンを停止させることは出来ない。
フリーズではアレキサンドリアごと凍らせてしまう。
制限時間はあと1分。
1分間もキャメルクラッチされていればさすがに気絶してしまうだろう。
しかし残った1枚はアレキサンドリアとの連携を
前提にして投入したカード。
迂闊に使えば自滅してしまいかねない。
「けどやるしかない!」
「!」
ロシナンテが全速力でラモンに向かって走ってきた。
そして、
「弾・行使!」
カードを発動するとロシナンテ自身がバスケットボールとなって
運動エネルギーそのままにラモンに飛んでいく。
が、
「残念。運動はもともと得意なんでね。」
ラモンは簡単にキャッチしてアレキサンドリアの頭に叩き込んだ。
アレキサンドリアから降りるとロシナンテが元の姿に戻り
アレキサンドリアと共に目を回している。
「ラモン!」
「行くよ!」
そしてティラと手を繋ぎ、
「ダイダロス・行使!」
2回分のチャージと二人分の魔力を使って大量の水を放ち、
目を回したままの相手二人を巻き込み
相手コートの出入り口まで押し流した。
水が引くと気絶した二人が転がっていた。
「そこまで~~~っ!!勝者・山TO氏高校!!」
アナウンスが入り二人がハイタッチして舞台を後にする。
「・・・やりましたね。」
控え室。ライラが素直に拍手をする。
「・・・さあ、次は私達ですわよ。
簡単に勝てる相手ではないことを覚えておきなさい。」
「大丈夫ですよキリエさん。
僕は今まで勝てると思って試合に臨んだことは一度もありませんから。」
「・・・それはそれで問題があると思いますが。」
「大丈夫ですよ、油断はしませんが負ける気もありませんから。」
そうしてライラとキリエが控え室を後にした。
・一方。
客席にはチーム風のメンバーがいる。
「そろそろライラの試合だ。」
「いよいよあいつ、全国の場に立つんだな。」
葵と飛鳥が興味深そうに腰を曲げる。
その横ではツヤツヤした表情の升子と形容しがたい表情のユイムがいた。
「・・・升子は分かるとしてユイムのその顔何なの?」
「いや、ライラくんの試合は興味あるんだけど
今更お姉ちゃんの試合なんか見させられてもね。
あとちょっと歯がゆかったりね。
自分じゃないのに自分の姿が全国の場に出てるっていうのは
パラレルの選手からしたら素直に応援しづらいよ。」
「・・・我慢なさい。元の姿に戻れればいつでも同じ事が出来るわ。」
「・・・でもさ、それってライラくんは元の姿に戻ったら
もうパラレル出来なくなるってことじゃないの・・・?」
「・・・そんなの私が知るわけないでしょ。」
(・・・リイラちゃんも辛いんだろうな。
ずっと兄妹でパラレルやってたみたいだし。
それに、この体。病院で天死に襲われた時はもちろん
今こうして来斗くんを傍に置いているだけで
なんか疼くものがあるよ・・・。)
ユイムの表情の微妙さは中々消えそうになかった。
・廊下。
ティラとラモンとハイタッチを済ませたライラとキリエが舞台に上がる。
ライラはもちろんタイトルマッチを繰り返し制覇してきたキリエでも
全国大会への出場は初めてだ。
もちろんタイトルホルダーである以上
キリエの実力は十分全国大会でも通用するし、
かなり上のランクに当たるだろう。
しかしそれでも相性次第ではもしかしたらという可能性もある。
自分含め判明している3人以外の
空間支配系カードを使う者もいるかもしれない。
それに何よりこの舞台は天井が左右に開かれていて密室ではない。
つまり蒼の支配力は半減しているということだ。
魔力だけでこの支配力に抗ったユイムと言う前例がいる以上
同じようなことをしでかせる人物がこの場にいないとも限らない。
しかしそれは飽くまでも一騎打ちの場合だ。
今は安心できる妹が隣に立っている。
半分ほどの支配力であってもそれをライラに適用させなければ、
隣に100%の力で動けるライラがいれば
十二分に相手の排除は可能だろう。
ならばいま警戒すべきことはブランチや天死の襲来だろう。
今まで大会には一度も関与してこなかったが
本格的に動き始めてしまったとされる
現在の状況ではいつ襲って来るか分かったものではない。
もしかしたらこの機に乗じて来るかもしれない。
天死はともかくブランチにしてみれば
この場は目的をかなえるのに最適な場所であるはずだからだ。
キリエが心配するまでもなく既に政府議会によって
この全国大会の会場は警備されていて何かあればすぐに
マサムネ率いる武装警官隊が出撃する手筈になっている。
(・・・今の私に出来ることは
ライランドくんを守ることくらいですわね。)
そして二人は試合に臨んだ。