104話「その名前は」
17:その名前は
・気付いたらライラは一週間ほど眠りについていた。
布団をめくるともうほとんど傷痕が残っていなかった。
が、微かに残る傷跡から自分に何があったのかを思い出す。
「・・・そう言えば僕は剣人さんに・・・」
「ライラ、起きたの?」
声。カーテンで仕切られた向こう側から升子の声がした。
「升子?」
やがてカーテンが開けられ升子が顔を出した。
「起きたのねライラ。もうどこも痛くない?」
「・・・うん、大丈夫。えっとあれからどうなったの・・・?」
「あなたが倒されてから一週間が経ったわ。
赤ちゃんなら無事よ。」
そうして升子が片手で抱いていた赤子を見せる。
「・・・無事だったんだね・・・。」
「それでね、ライラ。
そろそろこの子に名前をつけてあげたいんだけどどうかな?」
「・・・名前かぁ・・・。」
・翌日。
久しぶりに登校したライラはティラ達と
一緒に名前を考えてやることにした。
「やっぱり二人の名前を合わせたものがいいんじゃないかな?」
「けど相手は日本人風の名前だよ?ライラは国際風だし・・・。」
「ならどちらかの名前を相手側に合わせてみたらどうですか?」
「それはいいかもしれませんね。」
「・・・お前ら今が部活中だってこと忘れるなよ?」
部活でジョギング中に話をしているとミネルヴァにまたゲンコツされた。
「お前達忘れてるかもしれないがもう全国大会はすぐなんだぞ。」
「・・・あなたも随分とコーチが様になってきたわね。」
ラットンがくすくすと笑いそこへミネルヴァの竹刀が飛ぶ。
「お前は随分といい顔で笑うようになったじゃないか。」
「それはどうも。」
そして久しぶりに姉妹喧嘩が勃発して追いかけっこが始まった。
「ケーラちゃんは混じらないの?」
「そこまでお茶目ではないので。」
と、姉妹喧嘩を尻目におとなしくジョギングする5人であった。
そしてシャワー室。
「でもライラくんも大変だったでしょ。」
「え?」
髪を洗っていたらティラが傍に寄ってきた。
二人にしか聞こえないような話をするためか抱きついてくる。
ほとんど身長は変わらないがそれにしては立派な胸にどうしても目が行く。
「半年以上も裸の女の子がいっぱいいるここで耐えるなんて。」
「ああ、それですか。はい、そりゃもう大変でした。
何度事故を装っていろいろ触ったりしようと思ったことか。」
ライラがため息をつき、
振り向くと中等部のメンバーがはしゃいで遊んでいる。
「それで夏はあたしにあんなことをしたんだね。」
「・・・えっとごめんなさい。」
「・・・えい、」
「ひゃ!?」
話していたらいきなりライラの体を刺激が走った。
ティラがライラの、ユイムの陰核を指でさわっていた。
「な、な、な!?」
「まだそこは慣れてないみたいだね。
もう少し気を付けたほうがいいよ?」
「ティラさんこそいきなりそんなことをするのはどうかと・・・」
「じゃあ、仕返しとかしちゃったり?」
と、ティラはわざとらしく腰を曲げて胸を張り股間を押し出す。
当然視点は胸の突起と股間の割れ目に・・・。
「こら。」
「わ!」
「痛っ!!」
どぎまぎしてると二人揃ってシュトラに頭を小突かれた。
「妻子持ちが他の女の子にドギマギしない。
ティラも何人の婚約者を誘惑してるのよこの淫乱ロリ巨乳。」
「い、淫乱・・・!?」
「ま、まあまあシュトラさんも落ち着いて。」
「・・・ライラくん?いくら恋愛も婚約も自由な世の中だからって
これは浮気に当たるんじゃないかしら?」
「そ、それは・・・」
「・・・あ!そうだ!だったらライラくん私とも結婚しようよ!
KYMの新しい代表になってくれたら私も楽に・・・」
「あんたのはただの自堕落要望だろうに。」
今度はラモンに小突かれた。
「・・・でも結婚すれば浮気にはならない・・・か。」
「いやあなた何真剣に悩んでいるの?」
「え?あ、いや・・・その・・・」
「くっ・・・!
やっぱり中途半端に高い身長と中途半端な胸のせいか・・・!」
「シュトラ、それを私の前で言うとはいい度胸だ・・・!」
何故かシュトラとラモンが闘志をぶつけ合い始めた。
「で、どうかなライラくん?」
「・・・えっと、まだそこまでは・・・。
せめてもう少し落ち着いてからですかね。
僕が子供を産むとなれば剣人さんが黙っていないでしょうし。」
「そうだねぇ・・・。
ユイムちゃんが言うようにせめて剣人さんにも
希望の光があればいいんだけど・・・。」
「・・・希望の光・・・」
・それから5人で病院に行くともう升子は退院の準備をしていた。
「もう退院できるの?」
「ええ、まあ出産から一週間経っているからね。
この子もだいぶ安定したみたいだし。
さっきキリエさんから連絡が来て迎えに来てくれるそうだから。」
「・・・じゃあやっぱりX是無ハルト邸で住むんだね?」
「そうよ。行ったことないけどさぞかし豪邸なんでしょうから
私一人くらい居候しても平気よね?」
「えっと、部活のメンバー全員が居候しても大丈夫だと思う。」
自分とキリエ以外にも住み込みで働いているメイドと執事が10人いる。
それいてなお部屋が10以上は空いているのだから。
「あら、あなた達。来ていたんですの。」
「キリエさん、」
「ちょうどいいですわ。その子から聞いていますわね。
引越しの手伝いをしてくださる?
バイト代として夕食をご馳走致しますが。」
どうやらこのセリフからしてライラは強制参加らしい。
・・・まあ、最初から手伝うつもりだったから構わないが。
それから一応キリエにティラとのことを話すと、
「あなたX是無ハルトの当主をやりながら
KYMグループの代表取締までやるつもりですの?
多忙すぎて禿げますわよ?」
と一蹴された。禿げるのは嫌だ。
X是無ハルトの家にやってきて全員で升子の引越し作業を手伝った。
「まだ病み上がりですからこんなものかな。」
そう言いながら升子がベッドとタンスを片手ずつ持ちながら歩く。
「・・・私達いらないんじゃない?」
「ま、まあ、力はあっても数は一人だから・・・」
その間ライラが赤子を引き取ってあやしていた。
自分だけをジッと見つめてくれているがもう目は赤くならない。
なんでも政府議会によって
ライラの子供達は視力を弱くされているようだった。
さらに鎖骨をあらかじめ折っておくことであまり腕に力が入らないようにされている。
これでもきっと変貌してしまえばどうなるかわかったものじゃない。
「ふう、」
作業を終えると全員で風呂に入った。
温泉旅館顔負けの温泉だから6人全員が難なく入れた。
「キリエさんはいいのかな?」
「あの人、恥ずかしがり屋だから。」
実際は義手が防水じゃないからだけれどそれは言わないでおく。
「温泉旅館か。全国大会終わったらシキルの所に行ってもいいかもね。」
「あ、いいかも。」
「・・・ライラとお風呂って久しぶりかも。」
「・・・そうだね。中1位以来かな?」
「二人は幼馴染だったんだよね?」
「はい。僕が旧帝都の小学校に通い始めた頃からです。」
「幼馴染ってならリイラも含まれるけど。」
そして風呂から上がり20人のシェフによって
作られた夕食がテーブルに並んだ。
「・・・さすがはX是無ハルト。半端ないわね。」
「え、ええ・・・。」
「庶民からすれば豪華すぎてめまいがするわ。」
庶民代表であるシュトラ、ケーラ、升子がそれぞれつぶやいた。
しかししっかり食べてティラ達4人は帰っていった。
「ここがあなたの部屋ですわ。」
キリエに部屋を案内された。
「・・・ライラの隣じゃないんだ。」
「向かいなだけ感謝してくれませんか?
せっかく物置だったところを空けたというのに。」
「同じ部屋でも私は構わないのに余計なことを。」
「・・・どうしてこう私と接する女子中学生は生意気なのかしら。」
ぶつくさ文句を言うキリエを置いて升子が赤子を抱いたまま部屋に入る。
「何かあったらメイドを呼ぶといいですわ。」
「・・・申付用コール・・・。腹立つくらいのセレブね。」
「今すぐ追い出しても構わないんですのよ?」
「あ、ライラ。」
部屋で口論してると部屋に戻りに来たライラが見えた。
「升子、ここの人達は僕がライランドだって知らないから
人前ではユイムって呼んでね。」
「・・・分かったわ。人前では話しかけない。」
「え、ええ・・・?」
困った顔をしながらライラが部屋に入ってくる。
「そうだ。その子の名前考えたんだけどいいかな?」
「・・・何?」
「ライラのライに、升子の升を1つ上の単位にして斗。
この2つを合わせて来斗って名前どうかな?
未来を照らす希望の光になって欲しいって意味もあるんだけど。」
「・・・来斗・・・。うん、いいと思う。」
「やった・・・。来斗、これでもお父さんだよ?」
「お母さんだよ来斗。」
二人で赤子・来斗を抱き上げて見つめ合った。
なんとなく居心地を悪くしたキリエは鼻を鳴らして部屋を出ていった。
翌日、来斗・S・円cryンとして戸籍登録を果たした。