102話「死、告げる夜」
15:死、告げる夜
・月をバックに病院に飛来する人型猛禽類。
「あの姿、まるであの時のユイムでは・・・!?」
「破滅・行使!」
直後ライラがカードを発動させて窓からハンドガンで狙いをつける。
「ライラくん・・・!?」
「あれは危険です・・・!」
引き金を引くと窓をすり抜けて人型猛禽類に弾丸が向かっていく。
さらに空中で無数に拡散してそれら全てが広範囲に人型猛禽類に迫る。
が、敵はそれを急激な方向転換で回避して
しかしこちらに向かう速度は落としていなかった。
ライラは連続で発砲して狙うが
余りにも敵のスピードが速すぎて掠りもしない。
掠りさえしてくれれば即座に破滅の効果が発動するというのに。
そしてついに敵は病院の壁を打ち破って突入してしまった。
「水難!」
今度はスク水姿になって光より早く敵の全身を水で包み込む。
が、それでも敵は暴れ続けて周囲の壁や机等を簡単に破壊していく。
水圧を上げて押しつぶそうとすると敵の表皮が粉々になっただけで
その奥から昆虫の外骨格のような硬い肌が露出してきた。
「・・・シプレックじゃ威力が足りない・・・!
キリエさん!ブルーを!もう何秒も抑えられません!」
「わ、分かりましたわ!蒼・行使!」
キリエがカードを発動させ空間が蒼に染まっていく。
しかし敵が壁に開けた穴のせいで完全な閉鎖空間になっていないからか
支配力が完全ではなく制圧しきれない。
「何て力ですの・・・!?」
「私達も・・・!ストリーム・行使!」
「応!ブリザード・行使!」
リイラが魔力のビームを、葵が冷凍光線を放ち敵を攻撃する。
「ユイム!あなたも手伝いなさい!」
「・・・ぐっ!む、無理・・・!
今は自分の魔力を抑えるので精一杯だよ・・・!」
「何ですって!?」
「あいつが近くにいると何だか体中から
すごい魔力を引きずり出されるっていうか・・・
またあの時みたいに暴走しそうになっちゃう・・・!
ライラくんの体がどうしようもないほど熱いの・・・!」
「ユイムさんはそのままで!
多分僕の体のDNAがあいつに反応してるんです!」
「ならここから離れるのは・・・!?」
「あの速さじゃ逃げられませんよ!あいつ一匹とも限りませんし!」
言ってる間にもブルーの支配力も
シプレックの水圧も激しい力で押し返されつつあった。
浅い水たまりの上をマグロが暴れているようだ。
ナイトメアカードと空間支配系の2つの力を以てしても
いつ破られてもおかしくないほど敵の力は尋常なものではなかった。
しかし、
「力なら・・・!」
敵を背後から升子が羽交い締めにした。
「升子!?」
「早く・・・長くは持たない・・・!」
「・・・分かった!破滅・水難・双行使!!」
ライラが2枚のカードを同時に発動させ
スク水の上に漆黒の鎧をまとい水で
敵の動きを押さえ込んだままハンドガンを向ける。
引き金を引き破滅を込めた弾丸が銃口から放たれて敵に命中する。
「升子!離れて!」
「くっ!」
ライラが指示すると升子が離れ、
同時に敵は砂の粒子になって消えていった。
「・・・今のが・・・」
「・・・はい。僕や父さんが人間を捨ててしまった場合に
変貌してしまう姿の結末です。初めて見ますが分かります。
ああなったらもう目に見えるものすべてを
破壊して虐殺するただの獣でしかないと。」
「・・・でも、それでしたら何故ここへ・・・」
「升子、何か知ってるの・・・?」
「・・・あの子を産んだ瞬間に声が聞こえたの。
誰のものかは分からないけど、お前の力と知識を奪う、って。
それで気付いた時には私の魔力がなくなってて・・・。」
「魔力がない・・・?」
「そうなの。全く魔力がなくなっててカードも使えない。」
升子がカードを握るがまるで変化を成さないただの紙切れのようだった。
「ライラくん、どういうことかしら?」
「・・・父さんが言うにはあの敵は魔力を持たない生物だそうです。
それ以上のことは・・・」
「奴らは天死と呼ばれる存在だ。」
そこへ、剣人がキマイラに乗ってやってきた。
「剣人さん!」
「そしてまさかお前が天死だとはな。」
剣人は着地と同時に抜刀してユイムの、ライラの首に向けた。
「剣人さん!?」
「悪いなライランド。後で他に体を用意してやるから
今はこの体を殺させてもらう。」
「待ってください!どうしてそんな事を・・・」
「天死は俺達人間よりも前にこの地球上に存在していた生物だ。
そしてブランチによって作り出された種族。」
「ブランチが・・・!?」
「奴らの目的を忘れたか?
種の僅かな個体にだけ強大な力を与えてその種を自滅させる。
・・・奴らはそれによって自滅寸前にまで陥ってしまった生物だ。
本来天死はブランチによってそのまま絶滅するはずだった。
残った個体が1体だけだったからな。
だがその最後の1体が死ぬより前に人類が誕生した。
天死は人類に自分の種を植えつけて種を存続させてしまった。
ブランチは数の上で勝っている人類と個体数は少ないが個体ごとの
能力に優れている天死の両方に目をつけた。
そしてその両方を激突させることで両方の種族を滅ぼそうとしている。
一種族だけの自滅を待つよりは相反する二つの種族同士を
戦わせて生存戦争を起こしたほうが早いだろうからな。
・・・今までどうして奴らが積極的にライラに関わっていたのか。
てっきり俺が関わっちまったからかと
思っていたがそうじゃなかったんだな。
天死でありナイトメアカードの力を使えるお前をきっかけにして
人類と天死の生存戦争を起こそうとしていたんだ。」
「・・・僕が戦争の火種に・・・!?」
「そう。天死は種全体が滅びかかっているからか、
同族の命の危機には機敏に反応する。
お前が作った子供に反応したんだろう。
お前の子供を自分達の仲間とするために
奴らは何度でもやってくるだろう。」
「・・け、けどそしたら泉湯王国の時はどうなの?
僕あの時死んだのにそんなことは起きなかったよ!?」
「・・・あなたあの時はその体じゃなかったでしょ?」
「・・・あ」
「・・・とにかくこの体が生きている限り
天死は何度でも襲ってくる。場合によってはブランチも手を貸すしな。
さっきも言ったように天死に同族意識以外の知性はない。
たとえ自分達をかつて滅ぼしかけた相手であろうと
容易く利用されてしまうだろう。」
「・・・もしかして剣人さんは僕の3人の子供にも
同じ事を言って殺すつもりですか・・・?」
「・・・他に二人もいたのか。ああ、そうだな。
ブランチの野望を砕くため、人類を守るため天死は滅ぼさせてもらう。」
直後ライラは銃口を剣人に向けた。
「何の真似だとは言わない。だが、本当に覚悟の上だろうな?」
「僕は未来を守るためにあなたからこの力を受け取り
今までブランチと戦ってきたんです。
あなたが僕の未来を奪うというのなら僕はあなたとも戦います。」
「・・・いいだろう。だが!」
「きゃ!」
「ユイムさん!!」
剣人がユイムの、ライラの手を掴んで引き寄せた。
同時にキマイラがライラに突進する。
「撃てばユイムを殺すぞ!代わりの体も用意しないでな!」
「くっ・・・!」
発砲をためらうライラをキマイラが突き飛ばす。
「・・・風行剣人さん。
人質を取るなんて真似をする人ではないと思っていましたわ。」
「悪いな。俺も人類を守るために働いているんだ。」
「・・・ならば早く行かないと危ないのでは?」
「何・・・?」
「まだ私は蒼を発動しているので分かりますが
生まれた子供の近くにブランチの気配がしますわ。」
「!まずい!キマイラ!!」
「応!」
剣人がユイムを置いてキマイラに乗って廊下を突き進む。
「ユイムさん、大丈夫ですか!?」
「僕は平気だけど・・・」
「剣人さんを止めないと・・・。」
ライラがユイムを抱き上げた時だった。
「いや、やめなさい。」
「え?」
割れた窓の淵に白い男が立っていた。
「あなたは・・・パラディン・・・」
「私の味方をしろと言うつもりはありませんが
今彼を止めるということは私も君も望んでいない状況になってしまう。
君の子供である天死の末裔が
ブランチの手に渡れば確実に良くない事が起きる。
そしてそれはブランチ以外の誰からしても最悪の状況の可能性がある。
・・・親としては心苦しいかもしれないが今は子を見捨て給え。」
「・・・そんな親はいませんよ。」
そう言ってライラは2枚のカードを発動したまま
ステップを発動して剣人の後を追いかけた。
「・・・やれやれ。」
「・・・・・・」
パラディンを不思議そうにユイムが見上げる。
「彼に言いなさい。
可能だからといってカードの併用はやめた方がいいと。」
それだけ言ってパラディンは姿を消した。
「・・・追わないと・・・」
「俺は升子の傍にいる。だからこれを貸しておく。」
葵がユイムにタキオンのカードを渡した。
「・・・・うん!」
「行きますわよユイム。」
そうしてX是無ハルト姉妹も後を追った。