100話「秒晶~次なる一歩に向けて~」
13:秒晶~次なる一歩に向けて~
・病院。
山TO氏のメンバーもチーム風のメンバーもそこに集まっていた。
ライラ、ユイムの体の検査も終わりキリエも回復し、
ラットンも重要部位の機器の修復が完了した。
「やあやあ私服も可愛いねぇ!」
「メアド交換してくれよ。」
「やぁぁ~~っ!!もう何でこいつらがいるの~~!」
「すっかり完全に目をつけられちゃったねぇ・・・。」
「俺も痛み止めをもらおうかな?
どっかのゴリラ女にひどい目に遭わされた。」
「何?もう一回やる?ライフなしでもいいけど。」
「ようあんた、大丈夫だったか?」
「お気遣いには感謝するわ。でも次は負けない。」
「まさか空間支配系がただのカードに負けるなんてね。」
「カードはカードですよ。使い方次第です。」
それぞれの対戦相手と鉢合わせながら病室に入る。
「み、みんな・・・」
「あなた達、うるさい・・・」
ライラが喜び升子が眉を動かす。
「あんた、本当に妊娠してたんだね。」
シュトラが升子の傍に寄る。
「誰かと思えば年下の妊婦さんに負けた人じゃない。
また負けて泣きに来たの?」
「勝ったわよ!あんたんとこの失礼な男にね!」
「ビビンバルドなんて100回倒したって自慢にはならないわ。」
「おいお前、一応先輩だぞ俺?」
「チーム内最弱の癖によく言うわ。」
「ほら、負け犬の男は黙っていなさい。」
「・・・ら、ライラ、こいつら何とかしてくれよ・・・」
「ぼ、僕に言われても・・・。」
「お前ら一応病室だぞ。少しは静かにしたらどうだ?」
「そうですわよ。はしたないですわ。」
年長者二人に窘められて一気に静かになった。
「ともあれ山TO氏のお前達、全国大会出場おめでとう。」
「俣野さん・・・」
ライラと葵が握手をする。
それ以外の選手もそれぞれ対戦相手と握手をした。
X是無ハルト姉妹以外は。
「ユイムさん、キリエさん・・・」
「今更私達が握手したところで・・・」
「そうだよ。お姉ちゃんだってタイトルホルダーなんだし・・・」
「もう、二人共・・・」
恥じらう二人の手をライラが無理矢理掴んで握手させた。
「あ、」
ユイムが鉄の感触を握り表情を変えた。
「だから気になさらないでと言ったはずですわ。
他人の心配などあなたらしくないことはおやめなさい。」
「お、お姉ちゃんこそ妹の慰めなんて似合わないこと・・・!」
「お二人共・・・?」
ライラの視線を受けて二人は仕方なく手に力を込めた。
「そう言えば気になったんだけど。あんた妊娠してるんだよね?」
「あなたと違って私はスリムなの。
そうじゃなかったらここまで太らないわ。」
「私だってそこまで太ってないし十分スリムよ!
・・・あんた確か中学生でしょ?大丈夫なの?」
「・・・そりゃ悪い意味で話題にはなったわ。
多分退院しても復学は出来ないわね。」
「・・・そうなんだ。」
「何しょげてんのよ。私はあんたが好きだっていうユイムを
脅してレイプさせたのよ?言ってみればユイムの童貞をもらったのよ?
それにあの時の試合でだってあんたを普通
試合じゃ使わないようなカードでボコボコにして・・」
「へえ、罪悪感あるんだ。」
「お、おとなしく謝られなさいよ!」
「いいよ。あんたの気が済むまで頭を垂れるといいわ。
けど私だってライラくんの子供妊娠してるんだから。
もう試験管にあずけたけど。」
「はぁ!?ゆ、ユイムとじゃなくてライラと!?」
「そうよ。10月にね。あんたと違ってライラくん本人からなんだから。
それにユイムさんとだって心配しなくても夏休みに・・・」
「ああ、それでしたら
あなた性殺女神に性別殺された際に
なかったことになっていましたわ。」
「・・・え!?」
「ですのであなたの第一子はライランドくんとの間の子です。」
「・・・そ、そんなぁ・・・」
「ごめんねシュトラ。でも後でしよ?」
「は、はい!」
「・・・あなた達まさか病院のベッドでするつもりじゃ・・・」
「と言うかユイムさんそれ僕の体・・・」
「・・・なんだろうな、あれ。」
「女しかいないはずなのにどうして妊娠の話になってるんだろうか。」
病室の隅っこの方で飛鳥、拓也、紘矢、ビビンバルドがぼやく。
「・・・そう言えば1つ気になったことがあるんですがいいですか?」
「ケーラさん?何ですか?」
「ライランドさんはその、生えてるだけで女性だと聞きました。
それなのにどうして思考とか仕草とかが男性的なんですか?
それにただ生えているだけでは子供は産めないのでは・・・?」
ケーラの質問に再び病室の空気が静まった。
「・・・えっと、僕にも詳しいことは分からないので
推測になっちゃうんですが・・・。
僕のお父さんも昔は同じような感じだったって聞いています。
つまり元は女性で、後天的な出来事が起きて生えてきて・・・。
お父さんも最初は女性のままだったんですが
2年もすればもう女性なのは姿形とか喋り方くらいしか
残っていなくて・・・。
多分僕やお父さんの種族は数が少ないんです。
なので種族の繁栄のためには女性でいるのは邪魔なんです。
だから女性を男性にしてたくさんの
人間の女性との間に子供を作って種族を増やす・・・。
最初は女性である理由もきっとその間にも
子供を作れるためなのだと思います。」
「それってひょっとして私やユイムさんとの間に作った子も・・・」
「いえ、それは検査の結果問題ない普通の人間だと判明しましたわ。
万一生まれたあとで後天的にDNAが変わるものだとしても
大丈夫なように調整されています。・・・それよりも問題なのが・・・」
キリエが升子を見下ろす。
「・・・ライラの体を使ったユイムとの間に生まれたこの子供ってわけね。
他二人と違って試験管育成じゃないから調査が出来ない。
おまけに私はここのメンバー以外の誰にも夫が誰なのか言っていないから
今まで調査されることもなかった。
そしてこのお腹の子はきっと一週間以内には生まれる。」
そうして膨れ上がった腹部を抱えるようにしてキリエを睨む。
「この子を処分でもする気かしら?」
「そこまで非人道的なことはしたくありませんわね。
ですがきっと生まれてからはしばらくの間
調査や調整が入ることは間違いありませんわ。
そしてその結果どうしても脅威が去らないと
判明した場合は最悪の可能性も・・・。」
「・・・ふん、やっぱりX是無ハルトは人殺しの才能しかないようね。」
「なんですって・・・!?」
「升子、それは少し言いすぎだよ。」
「ライラ・・・ライラはいいの?あなた、怪物扱いされてるのよ・・・!?」
「だって・・・だって僕は怪物だもの・・・。
その怪物の体をユイムさんに押し付けて自分は安全な体にいて
今までみんなを騙しながら暮らしてきていた。
でも、もう僕は自分を捨てたりはしない。
ユイムさんとシュトラさんとの未来があるから。
・・・きっとお父さんも同じ気持ちだったと思う。
愛した人との未来があったから絶対に自分を捨てなかった。
性別が変わっても種族が変わっても自分は自分だからって。
・・・それじゃダメですか?」
「・・・誰にも誰かの決意を容易く妨げることは出来ませんよ。」
「そうだよライラくん。僕ももう絶対この力使わないように頑張るから。」
「私達だって一緒にライラくんのことを支えていくつもりだから。」
「・・・みなさん・・・。やっぱり僕は今、幸せです。
こうやって仲間達も恋人も家族にも恵まれて・・・。
こんなに嬉しいことはない・・・」
その日、ユイムの体になって初めて涙をこぼしたライラは
みんなに励まされそして全国大会出場が決まったことを祝った。
・一方。
「・・・近くに寄ったから
忘れていたチェンジを渡そうと思っていたがまさかこんなことになっていたとは・・・」
病室のドアの前。剣人がいた。
「・・・まさかあいつが天死だったとは・・・」
呟きを残してそのまま踵を返して去っていった。