99話「風の果つる先へ・後編」
12:風の果つる先へ・後編
・ラットン・MK・Hル卍。16歳。
2年前に事故を装って父親によって母親ごと殺されかけ
第二世代の機械人形の技術を使われてサイボーグとして生き返った少女。
同じような状況だった民子・J・ミドリュエスカラナイトと違って
技術が進歩したからか機械化された部分は少ない。
当時はステメラにいざという時の戦力としてみなされていたためか
体内にいくつか武装を持たされていたが政府議会によって
それらはほぼ全て除去され残された機能は飛行機能やその他少し程度だけだった。
しかしそれでも体内にはまだ多くの機械が残っている為か
磁力の影響を受けやすい。
「くっ・・・!」
手足に大量の砂鉄がまとわりつき懐のカードを取ろうにも手間がかかる。
「なんだ、他の奴らと違ってそこまで体を鍛えているわけじゃないんだな。」
「わ、私は正道だからね・・・!!」
「山TO氏にしては珍しいな。と言うか、そうか。
まだライラとそこまで親しくないってところか?」
「そういうわけでは・・・ん、無駄口・・・?まさか、」
「今気付いたか!!」
直後飛鳥の背後の地面から巨大な砂鉄の塊が出現してラットンを見下ろす。
「俺はそこまで魔力総量も集中速度も高いほうじゃないんでね。
こうやって無駄口叩いて余裕ぶってる間に
せっせと地味に魔力を稼がせてもらっていたのさ。」
ラットンを見下ろす数百キロはありそうな砂鉄の塊。
それが飛鳥の合図で今ラットンに向かっていく。
「ふ、炎・行使!」
命中する寸前にカードに手が届き発動。
砂鉄が大爆発してそこからラットンが飛び出してきた。
「磁力を炎で無力化したか。けどあのタイミングだ。無傷じゃないよな。」
「・・・・・。」
ラットンは手足にまとわりついていた砂鉄を全て払い、
フレイムのカードの銃口を飛鳥に向ける。
僅かなラグの後火炎弾が発射され、それを飛鳥は側転で回避した。
同時に、
「・・・・くっ・・・・!」
ラットンが膝をついた。眼前で巨大な砂鉄の塊を爆破した事で
大量の砂鉄が高速で体を打ち付けていた。
「砂の1粒1粒は小さくたって集めりゃサンドバッグになる。
サンドバッグは殴るものだが実際サンドバッグで殴られたら痛ぇわな。
それもどっかの誰かさんが圧殺直撃を回避するために爆破なんてすれば
そりゃパンチと同じくらいかそれ以上のスピードでサンドバッグが飛んでくるんだ。
他の山TO氏ならともかく正道なあんたには・・・耐えられるかな?」
飛鳥がふっと笑い、ラットンは必死に立ち上がろうとしているが
先程の衝撃で肋骨の代理をしていた装甲が破壊されてしまっていた。
ライフの効果は人間の生身の部分にしか適用されない。
当然このようなリスクは織り込み済みだ。
しかし偶然かもしれないが飛鳥の言動や攻撃は一々的確すぎる。
これが計算だったら恐ろしい相手だっただろう。
「ま、まだよ・・・!」
立たずに膝をついたまま飛鳥向けて火炎弾を発射する。
「ストリーム・行使!」
対して飛鳥は魔力のビームを放って火炎弾を相殺させた。
「おいおい、打ち破る気でいたのにどれだけ魔力込められてるんだよ。」
「まだまだぁっ!!」
今度は3発連続で発射する。
流石に一発一発の速度や威力は落ちているが
それでもストリーム一発で対処できる領域ではない。
「ロケット・行使!!」
ストリームを中断して空へと逃げる。
その数秒後に飛鳥のいた場所を3発の
火炎弾が通り過ぎて後方の壁に命中して消えた。
「くっ・・・!なら!!」
今度は2発を発射する。ただの2発ではなく追尾機能付きだ。
しかし明らかに移動速度が違った。
フレイムの火炎弾ではせいぜい時速20キロ程度が限界速度だ。
今のは余計な機能が付いているからその半分も出ない。
逆に飛鳥のロケットは現在時速60キロは出ている。
飛鳥は火炎弾を余裕で回避しながらラットンのすぐ傍を
時速200キロで通過し、その衝撃でラットンを突き飛ばす。
「がはっっ!!」
何度も転がり、やっと止まった場所に自分が発した2発の火炎弾が
降り注ぎ燃える温度に全身を襲われる。
「これには耐えられないだろう。」
ロケットを中断して着地する飛鳥。
直後腹に小さな火炎弾が超スピードでぶち込まれた。
「ごぼっっ!!」
「・・・くっ!」
燃えながらラットンがカードを放っていた。
しかしやがて意識を失いその場に倒れ気絶した。
「そこまでっ~~~!!勝者・チーム風!」
アナウンスがかかりライフの効果が切れる。
「いてて・・・。とんでもない女ばかりいるところだな。
空間支配系の制御ぶん盗ったりプロレス仕掛けてきたり
・・・ん?どうした?」
飛鳥がラットンに近寄るがラットンはまだ苦痛に表情を歪めていた。
「おい、どうした!?ライフ効いてなかったのか!?」
飛鳥がラットンを抱き上げると胸の部分から火花が散っていた。
「・・・そ、そうか・・・!
体に機械があるからその部分にはライフがかからねぇ・・・。
何かまずいところに機械があってそれをさっきのあれで・・・」
「き、気にしないで・・・。織り込み済みだから・・・」
それから専用スタッフがやってきてラットンは運ばれていった。
「・・・あなた方は先に病院へ。」
控え室。ケーラが席を立ちそう言い放つ。
「で、でも・・・」
「チームメイトが3人も病院に行く状況なのです。
・・・ここに残るのは私だけでいいでしょう。
ミネルヴァ姉様、ティラさん達をお願いします。」
「・・・分かった。お前の分のスカイカーも用意しておくからな!」
全員控え室を出てケーラ以外はロビーへと向かう。
「・・・さて、では久しぶりに一人で舞うとしましょうか。」
そしてそれに背を向けて舞台への道を辿った。
・病院。
既に検査を終えたライラ、キリエ、ユイムが同じ病室にいた。
「え?ラットンさんが?」
「そうなの!多分同じ病院に行くから!」
シュトラから連絡があった。
「じゃ、僕ちょっと様子を見てきます。」
「分かりましたわ。」
キリエに挨拶をしてからライラが退室する。
「・・・チームメイトなんだから行ったげたら?」
「そう気を張っていたらまた発動してしまいますわよ。」
「・・・僕は・・・」
「ユイム、私はあなたとライランドくんの婚約も
シュトラさんとの婚約も認めているんですわよ?」
「・・・でも、」
「腕のことならお気になさらず。立派な義手に出会えましたから。」
「・・・それ女の子の台詞じゃないよ。」
「それに彼・・・いえ、彼女のことを気にしているのも分かります。」
「彼女・・・か。やっぱりライラくんって女の子だったんだね。」
「ええ。詳しくは本人から聞きなさい。」
それから数分後。
ライラがティラ達と合流してラットンの修復作業に
立ち会うのと同じ頃試合会場では。
「・・・まさか、ここまでとは。」
ケーラが息を切らし両腕を垂らしていた。
決勝戦・シングル戦3。
ケーラの相手は同じ1年生の女子。
「どうしたの?もっと楽しませてよ。」
カンナ・IS・モーランド。
彼女の発動したカードは空間支配系・星。
それを発動すれば周囲の環境は自分で考えた環境に変わる。
現在の環境は身長が150センチ以上、バストがCカップ以下
という条件を満たした者の両腕の神経を停止させ
さらに体力も魔力も著しく吸い上げられていく環境だった。
「これが空間支配系・・・!」
「これを制御できるようになるまでの半年間、
一度も試合には出させてくれなかった。
そしてその初めての試合が今。全力で遊ばせてもらうの。
だからもっと楽しませてよ、無敗さん。」
カンナが笑い、その瞬間にもケーラから体力と魔力を吸われていく。
腕が動かせないためカードを取ることも出来ずにいる。
走り、蹴りつけようとしても即座に重力のない空間に変えられてしまい
移動できなくなってしまう。
身動き出来ない状況で体力と魔力だけが激しく動いている。
体は全く動いていないのに何夜も連続で徹夜したあとに全力疾走しているようだった。
熱が90度、脈拍360、血圧400。
1000年近く前のテレビ番組で聞き覚えのある最悪の状態が
頭の中に生まれてしまった。
しかしそれを振り払って今までの空間支配系カードの事を思い出す。
そして今まで敢えて使っていなかったこの手段を使う。
それは、
「クイック・行使!」
「へ!?」
直後、いやほぼ同時にカンナの顔面に水の塊が叩き込まれた。
突然水をかけられたことで僅かだが集中が途切れ、
ほんの一瞬プラネットの効果が無力化された。
同時に着地して1枚のカードを手に取る。
「レンゲル・行使!」
手に取ったカードから杖が飛び出てまっすぐカンナの胸に命中する。
「きゃ!」
並外れた巨乳のお陰でダメージはあまりなく杖がはじかれてしまう。
が、その弾かれた杖をキャッチして一気に接近。
顎・喉・後頭部を連続で穿ち、カンナを弾き飛ばす。
「くっ・・・!」
意識が遠のくカンナはそれより前にプラネットを中断した。
そしてカードに戻ったプラネットを握ったまま倒れ気絶した。
「勝者・山TO氏高校!ケーラ・ナッ津ミLク!
よって優勝は山TO氏高校パラレル部!!」
アナウンスがかかる。
しかしその場に立っているのはケーラしかいなかった。
「・・・慣れていたはずだったんですけどね・・・。」
静かにつぶやきその場を去った。