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四話

 人々から酒の町と呼ばれる町、グリーンベルは帝都から東の位置にある。

 酒造りが盛んで、各地から酒豪や酒好きが集まるグリーンベルでは、酔っ払い同士の喧嘩など日常茶飯事で、居合わせた者達の間では早速どちらが先に潰れるかで金を賭け始める。

 この場合の勝ち負けとは酒場の町らしく、どちらが先に酔い潰れるかである。

 買っても負けても盛り上がるそれは、グリーンベルの名物と言われている。

 村から馬車で一時間程度で着くこの町は、今日も酔っ払い達の喧騒に溢れていた。



「昼間から凄い町だな……」


 村で起きたのが丁度昼だった。

 小屋の主人に礼を言い井戸で顔を洗っていると、前日の爺さんがまたもやって来て、グリーンベルへ向かう馬車が出るが、どうするかい? と尋ねられ、二つ返事で乗せて貰う事にした。

 どうやら爺さんが馬車の持ち主に話をつけてくれたらしく、乗せて行ってくれることになったと言うのだ。

 俺は爺さんに感謝を告げ、馬車に乗って村を発った。

 そして現在、様々な店や屋台が顔を連ねるグリーンベルのメインストリートを俺は歩いていた。酒場や屋台から食指が動く旨そうな匂いが漂っていて、自然と口内で唾液が溜まり、ゴクリと喉が鳴った。

 ガタイのいい男達がまだ昼だというのにあちこちの店で浴びるように酒を飲んでいるのが見える。

 酒場や屋台がメインのこの通りには、主に冒険者達が集まっているようだ。

 鎧や剣を装備した人ばかりだった。

 冒険者ギルド目と鼻の先にあるというのもあってか、ギルドから出てきた冒険者がそのまま酒場に向かっている。


「ん?」


 ふと、視界の端で何かが起こった気がした。

 その方向に視線をやるが、特に変わった様子は無い。

 んー? 気のせいか?

 そう思った時、一人の男が路地の奥へ早足に消えて行った。

 酔っ払いが気分でも悪くなったのか。そう思うのだが、引っ掛かりのようなものを覚え、気付けば俺は男の後を追って路地へ入っていた。



 路地は陽の光が満足に届かず、薄暗くじめっとしている。

 陽の光が無く閉鎖されたこの空間はヒヤッとしていて薄ら寒い。

 一本道を駆けるように進んで行くと、二つの曲がり角に突き当たった。

 左側はまた一本道が続いているようだったが、右手側はまた曲がり角があるらしく、その先から数人の男達の話し声と、微かに女の人の声が聞こえてきて、俺の心臓が跳ね上がった。

 額や背中にじんわりと汗が浮かぶのが分かる。

 俺は静かに気付かれないよう気配を押し殺して声がする角の手間へと着いた。

 距離が近付いたことで、ハッキリと声が聞こえる。

 俺は壁を背にして、そっと顔だけを覗かせた。


「おい、早く誰か見張りに行けよ」

「誰も来ねえーって。お前は心配し過ぎだよ」

「わざわざ裏口から運んできたんだ。誰も来ねえよ」

「ちッ。もし見つかったらテメえらで始末しろよ」

「わーったからとっと始めようぜ」


 下卑た笑みを浮かべた若い男達が足元で地べたに座る女性を囲み、乱暴を働く直前だった。

 女性の様子がおかしい事に気付いた。こんな状況だというのに、悲鳴一つ上げず、時折呻くだけで抵抗が見られない。

 既にズボンを下げている男に仲間の男が「落ち着けよ。お前の番は後だ」と言って笑い、周りも釣られて笑いが生れる。

 すると、女性が顔を上げて、虚ろな視線でグルりと男達を見渡し、一言言い放った。


「み、水をくれ……」

「んなもんねえーよ。俺からお願いするぜ? へへっ」


 男がズボンを下ろし、女性の服に手をかけた。

 女性は尚も「水をくれ……もう限界だ……水……みず……」とブツブツと呪詛のように言い終えると、突如口を覆った。

 俺は嫌な予感しかしなかった。


「うっ……」

「あ?」


とうとう決壊した女性が、盛大にリバースした。

キラキラという規制が掛かるレベルだ。


「うぉおお!? きたな臭えッ!!」

「吐きやがったこの女!!」

「かかったッ、足にか臭ッ!?」

「臭えぇ!」


 一瞬で場が地獄絵図と化した。

 男達が俺に気付かず我先にと走り去って行く。

 周囲に嫌な匂いが立ち込め始めた。


「やべぇ……厄介事に首突っ込んじゃった……」


 ふえぇ、俺も逃げたいよぉ……。


 けほッと咳き込み呻きながらキツそうにしている女性に色んな覚悟を決めて近寄り、この女性(ヒト)を連れ、とりあえずこの地獄から離れる事にした。

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