三話
「ん……? 何だ?」
突然、蜂の魔物の死体がキラキラと輝く粒子となり、跡形も無く消えてしまった。
そして、死体があった場所に、何かが落ちていた。
「針か? これは」
俺が拾った物は、四十センチくらいの長さの黒い針だった。
どう見てもさっきの蜂型のモンスターの毒針だった。
ドロップアイテム、みたいな物なのか? ゴブリンの時は確認できなかったけど、もしかして同じように落としていたのだろうか?
それを確認しにまで戻る暇は無い。
雨も降りそうで、辺りも段々暗くなり始めていた。
森の中というのも合間って、一層暗く見える。
俺は針を回収して、村へ急いだ。
畑に挟まれた土手の先に集落が見える。
三十にも満たない木造の家が並ぶ小さな集落のようだ。
一時間近く歩き続けた結果、俺が目指している町に近い村へ着いた。
疲れた。肉体的にも、精神的にも疲れた。
とりあえずこの村で町の情報を手に入れて野宿だ。
「はぁ……金が無いんだよなぁ……」
「なんじゃお前さん、金が無いんか?」
「ええまぁ……はい……」
俺が小さく零した独り言に、畑仕事で焼けた爺さんが返してきた。
今から少し前に村へ着いた俺は、変わった服を着ている事やさらにそれがボロボロだったという事が関係して、訝しむ視線を集めたが、話し掛けてくれたこの気さくな爺さんに魔物に襲われたと言うと、その視線も和らいだ。
この世界では魔物に襲われることは日常的に起こっているのだと知った。
井戸の場所を教えてもらったので、早速腕の血や上着を洗っていると、同じ爺さんがやって来て、畑仕事で顔や体(上半身)を洗い出した。
「まあこんな村にゃ仕事もねえ。この先の町に行けばあるだろうがなあ」
「さっき教えて頂いた冒険者ギルドの事ですか?」
「ああ。ギルドで冒険者にでもなりゃあな。あるんだろうが。お前さんの腕次第だな。はっはっはっはっ」
最後に爺さんは「でなきゃ殺されて喰われちまうぞ」と顔をアップにして言って、笑いながら去って行った。
俺はさっきの戦闘が頭をチラつき上手く笑えなかった。
元気な爺さんだった。
その夜、村で使ってない藁小屋なら貸してやるから寝てもいいと言われ、藁独特の匂いに包まれた小屋で、自分が持っている知識を一度整理していた。
俺が今居るのはグレムスという大陸の《ホールベル帝国》という国の帝都から東に下りた村だ。
この村から西に行けば町が在り、そこからさらに行けば大小幾つかの町や村を中継して、帝都へと行くことができる。
今のところその予定はない。
まずは生活できるだけのお金を稼がなくてはいけない。
でないと今のように寝床だけではなく食事すらもままならない状態が続くことになる。 今も腹が減っていて、かなり辛い。
このままでは最悪餓死してしまう。
とにかく、俺は町へ行ったらギルドで冒険者になってお金を稼ぐ――。
その後のことは、その時に考えればいい。
そこまで考えを纏め終えると、丁度眠気が襲ってきて、疲労もあって翌日の昼頃まで泥のように眠った。