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後編

 俺を混沌の渦へと叩き込む事件から、1週間。



 学園生活の中でも、大きなイベントの一つである、ダンスパーティーが始まっていた。ゲームであれば、重要なイベントが起きそうなタイミングである。



 しかし、俺の混乱は、治まらない。



「あの女教師が、ヒロインだったとしてだ。いったい俺は、何をすればいいんだ? ヒロインの方がよっぽど(・・・・)悪役っぽかったじゃねえか。」



 思い思いの異性を誘い、ダンスする生徒達。それをぼおっと見つめながら、負のオーラを展開する自分に、誘いの声が掛かるはずもなく、壁の華を演じていた。



 しばらく、そうしてパーティーを眺めていて、ふと気付く。



「女教師に、騎士団長の息子、それに何人か、主要人物が見当たらねえじゃねーか。」



 事件の予感だ。








 俺は、人気のなくなった校内を歩く。そして案の定、例の使われていないはずの教室から物音が。



「やっぱりここかよ。まったく、案の定だよ。今度は何だよ。いや、分かってるよ。分かっているけど、一応な。」



 そして、いつかのように扉を少し開け、中を覗く。



 そこには、



「アアアァァーーーッ!! イイわっ! 来てっ! もっと、もっと!」



「先生、僕、もう、先生、せんせい、センセイッ!」



 パタン


 ……………んん? うんんん? え? んんんんん?


 ちょっと、一応な、一応、もう一度、確認のためにな。


 カチャリ



「ああああぁっ! ダメッ! 先生、もうダメになっちゃ」


 

 パタン


 ……アレ? え? ええええぇっ!?


 何で男が変わってるんだよっ!!!


 誰だよ!? 知らねえぞ、あんな男っ!


 騎士団長息子は、どうしたんだよ!


 何がダメになっちゃうだよ! とっくにダメだよ、この腐れ教師!



 いったい何が起こった? いや、待てよ、これは、まさか、逆ハーレムルートというやつか!? あの男子学生は、ノーマークだった主要人物の一人なのか? 最後は乱交プレイか? もう、それ、どうやって感動するんだ? 教えてくれ、妹よ。



「いや、うん、もういいや、疲れた。帰る、帰って寝る。」



 そして俺は、思考を放棄し、歩きだす。


 もう何も感じない。


 疲れ果て、ただただ(・・・・)、寮を目指して歩いていた。










 しかし、ある教室の前を通りがかった時だ。また、物音が聞こえてきた。



「マジで何なんだ、この学園。もう盛り過ぎだろ。今度は男性教師と女子生徒か? もうストーリーとか知らね。全部、鉄拳制裁。その後、クソオヤジに報告だ。」



 そしてまた、扉を少し開け、中の様子に凍りつく。そこには、騎士団長の息子と、



「王子、いけません、おたわむれを。僕を、あの汚らわしい教師から救っていただいたことは、感謝いたします、しかし。」



「いいんだ、皆までいうな。ヴァル、俺は、お前の気持ちを初めから知っていた、知っていたんだ。」



「王子! まさか、でも僕なんか。」



「ヴァルよ、名前で呼んでおくれ。俺は、お前が俺のリコーダーにしたことは、知っていた。知っていながら使っていたんだ。」



「グレイ様………(ポッ)」



「さあ、ヴァルよ! 黙って、俺に、突いて来」



 パタン



「…………」



 王子よ、いったい、ナニを、しているんだ。


 そして妹よ、お前、いったい、ナニを、していたんだ。












 夜が明ける。


 全て謎は、解けた。


 まったく、記憶に無いはずだ。


 初めからヒロインなんて、いなかったんや!


 そこから俺の行動は、早かった。



 どうやら王子は、俺との結婚を隠れ蓑に。裏では、騎士団長の息子とチョメチョメ、みたいに考えていそうな感じだ。どうやら、男女どっちもイケるらしい。



 そんなことは、許さんぜよ。王子よ、てめえのエンディングは、他に用意してやるぜ。



 汚嬢様1号、2号、V3に指令を出し、情報収集、情報拡散。悪役令嬢としての振舞いと、イジメのシナリオを描かせ、騎士団長の息子を追い詰めた。



 いやー、汚嬢様達は、本当によくやってくれた。俺が無表情になって 「お願いだから、私の右腕(マシーン)に仕事をさせないで。」  って言うと、必死になって何でもやってくれたね。



 ついに王子の耳に入る、騎士団長の息子に対するイジメの噂。それを問い詰めに行く王子。そしてたまたま、目撃してしまう、イジメの現場。どうやら、イジメを扇動している者が居るらしい。(シナリオ、汚嬢様V3)



 寄せては返す、二人の想いを計算し尽くした演出(汚嬢様2号)。汚嬢を頂点とする、令嬢ネットワークによる緻密な進行(汚嬢様1号)。時折見せる黒幕の影に、悪役令嬢イザベルの痕跡。必死に証拠を探す王子。



 計画から2年後、仕込んだ種が芽吹き、二人の感情は爆発する。



 そして物語は、冒頭へと戻る。








「ヴァルに対する度重なる陰湿な行為、極めて目に余る。また、他家の令嬢たちの弱みを握り、扇動した疑いも掛かっている。


 お前のような奴は、国母に相応しくない。侯爵令嬢イザベル、お前に婚約破棄を申し渡す。」



 俺は、卒業式の最中。全校生徒の目の前で、王子付の騎士に取り押さえられていた。



 悲しげな顔で目の前の王子を見上げる。王子の隣には、恐怖か感動か、震えながら縋り付く王子の想い人、ヴァルの姿があった。



「身に覚えがありまふぇんわ。」



 あ、やべ、噛んだ。



「そのような嘘が通用すると思うな! 全て証拠は、揃っているんだ。」



 俺は、下を向いた。



 あー、もうだめだ、嬉しすぎて我慢ができん。このままでは、悲しい顔を維持できない。



 もうね、今の気分は、盗んだバイクで走り出して、スタンディングガッツポーズですよ。



「ヴァル、俺は、真実の愛に気が付いたんだ。頼む、俺と結婚してくれ。」



「………(ポッ) ハイッ、喜んでっ!」



「ブフォッ!(ぷるぷるぷる)」



 やべ、吹いた。


 あーあ。お集まりの皆さん、唖然としちゃってますよ。俺を捕まえてる騎士も、”宇宙人を見た”みたいな表情してるし。おいおい、拘束が緩んでまんがな。頼むよ諸君、ここが見せ場なんだから。



 あ、キス始めちゃったよ。おいおいおい、こんなところで、おっぱじめんなよ。











 卒業から1カ月が経過した。



 あれから学園は、上へ下への大騒ぎ。結局二人は、病気の療養という名目で、地方の教会に軟禁されているらしい。マァ、ヨロシク、ヤッテルンジャ、ナイデショウカ。



 国王様には、しこたま謝られた。お金もいっぱいもらった。よいよい、許す許す。汚嬢様たちと山分けだ。あいつらには、本当によく働いてもらったからな。



 イジメや悪事の証拠とかは、どうなったかって? まあ、多少は捜査したみたいだけど。それどころじゃ無くなったわけだし。ハナから女子全員グルだし。どうにでもなったな。



 そして、俺の結婚だが。クソオヤジには男性恐怖症ということで 


「もう、世の男性を信じることができなくなりました。愛するお父様にも触れただけで、こんなに震えとサブイボが。しくしく(涙)、こんな役立たずな娘を、お許しください。」


って言ったら、しばらく結婚しなくてもよさそうな感じだ。あと、何か激怒してたね。「王子、殺すっ!」 って。まあ、頑張れオヤジ。



「ハァァー、本当に激動の3年間だった。これは、グッドエンドなのか? バッドエンドなのか?」


 

 まあ俺にとっては、結婚しなくてもいいし、”食っちゃ寝生活”到来だし、トゥルーエンドで間違い無いんだが。



「最後に教えてくれ、妹よ。お前、これのどこに感動があったんだ? それと、結局どちらが主人公だったんだ?」



 俺の問いかけは、空しく消えた。

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