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4 南方を守る乙女は何処

「なんの冗談だ!」

 ロヴシャは背を伸ばし、声を荒げる。信じようとしていなかった、というべきかもしれない。

「私はそこまで質の悪い女じゃありません……事実です」

 女性も女性で、怯むことなくそう言った。その態度から事態を読み取ったのか、ロヴシャは一言、謝った。


「申し遅れました。リンカ隊長指揮下の衛兵、タナチカと申します」

 タナチカは既にほとんど息が整っていた。それなりの腕があるのだろうか? 体つきで判断するなら、納得できないものじゃない。四肢は細いながらも、筋肉が締まっていた。


「んなことは見りゃ判る、例の帽子が無くったってな……。で? 詳細にははどういう状況なんだ」

「はい。先ほど、『鮮血の箒星』一員を名乗る男から通達がありました。現在、リンカ隊長を某所で拘束していると。彼らの要求は、市街一帯への、移民の大々的受け入れです。ひとまず男の身柄は勾留中。隊長の行方は目下捜索中、現在まで不明。拒否した場合、また三時間以内に男が直接回答を伝えなかった場合、隊長の身に保障は出来ないと」

「あんたがここに来たのは?」

「隊長から先輩が、この時間にあなた方が隊長をと待ち合わせていると偶然にも聞いていたためです。その先輩から、あなた方に協力を要請するようにも言われました」

「なるほど。頼られたもんだ」

「あなたがたは信じられると、先輩の言です」

「そいつは見る目があるな」

「僭越ながら、私も同意見です」

「はっきり言う。気に入ったぜ」

 軽い言葉の割に、ロヴシャの目は真剣そのものだった。


 ひとまずと、ぼくたちは南へと足を向けた。タナチカや、リンカという人達の仕事場らしかった。

「タナチカ。あんたがどこまで聞いているか知らねえが」

 早足ながら、ロヴシャは話し続けた。

「オレたちは今日、『個人自警団』としてリンカから『鮮血の箒星』を、まあ……ちょいと懲らしめるようにって仕事を請け負う予定だった。だからこの件は、悪く言えば先手を打たれた格好だ。だからさっきは無駄に驚いて、心配させちまったかもしれない」

「いえ……そんなことは」

「でもこれってよ、良く言えば、ある意味想定の範囲内なんだ。だからなんとか出来るし、なんとかする。まずは安心しろ」

「……はい」

 ガチガチだったタナチカの口角が、少し上がる。

 ロヴシャ、きみは気遣いも出来る男なのか……と、見直した瞬間だった。

 復讐に憑りつかれた筋肉だとばかり思ってたよ。


「それでタナチカさん。あなたは『鮮血の彗星』について、どの程度知ってるのー?」

 今度はイア。足がやや遅れ気味なようで、背後から声だけが聞こえた。

「行政を中心に楯突く、愚連隊……かと」

「だよな。オレも最近までそう思ってた」

 名前だけは一丁前に付けやがってと思ってたんだ、なんてぼやく。


「でもそれは、少しだけ違うの。彼らは異国民の権利拡大を主義とする、左翼団体の一部。何かをバックグラウンドに持って、指示と資金を受けながら、この街の思想を動かすのが目的みたいなの。本当は今日、リンカさんと計画を練って。数日後に彼らのアジトに踏み込んで、探りを入れるはずだったんだけどね」

「図らずも、今回はそれが前倒しになったってことだな。準備は万全……とは言えねえが、不十分ってわけでもねえ。少なくとも、面子は揃ってるわけだしよ」

 イアは微笑み、ロヴシャは歯を見せる。それはあの、歪んだものとはまるで違う。人を元気にするような笑顔だった。

 余裕無さげなタナチカも、それで少しずつ心を開いているような感じがあった。


「お話を聞いたところだと……」と、タナチカ。「ひょっとして、お二人は『鮮血の箒星』の居場所をご存じなのですか?」

「あー、残念ながら、それは知らないの。今日、リンカさんから聞く予定だったからね。それに、その場所にリンカさんが捕まってるとも限らないでしょー?」

「それは、確かに」

 少し、しゅんとする。


「だけどだいじょーぶよ。アテはあるから」

 そう言って、イアは自分のこめかみに人差し指をトントンと当てる。

「犯罪的にとっておきな、研究者の極意――延法具の神髄! 見せちゃうからねーっ!」

 それはあまりにも魅力的で、期待出来て、頼りになる――ドヤ顔だった。

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