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0 まばたきほどの幸福は
母親の死因はまぎれもなく娘だった。
彼女はそれを判っていて、それでもわが子を愛し続けた。
娘が何も知らないうちに、いつしか自分を殺すとしても。
ついに死の際にあっても、母親は最期まで手を伸ばした。
◆
愛は本物であったが、死の事実は覆らない。
いかな魔法であろうとも、命が戻ることはない。
父親にはそれがすべてだった。
妻を終わらせた娘など、情けをかけるに能わなかった。
◆
幼い娘にしてみれば、世界のすべては父と母だった。
母が冷たくなったとき、父がこの世のすべてとなった。
ゆえに父親の一言は、娘の生を決定づけた。
「死神め。お前なぞ生むんじゃなかった!」