2日目の半ばに…
2日目の半ばに入ると馬車の揺れを楽しむことができないらしく、ヤエは壁にもたれかかって眠りこけていた。弟子二人もすっかり内装を見飽きてしまって、フランツと話したり、御者台に並んで座ったり、2頭の馬の世話を手伝ったりしていた。黒ぶち猫も遊び飽きたようで、御者台にいたシャーノの肩から屋根に飛び移って、ぐっすりと眠り込んでいる。
街道へ続く道は穏やかで、急ぎの旅でなければのんびりと辿りたいほどである。
ロナイ地方の気候は安定して少し肌寒いのが一般的で、北風をえぐるように山々が連なり掃き溜めのように寒さが残る。夏になればようやく長袖を捲ることができるようにはなるのだが、しばらくその気配はなさそうだった。
「ふむ、それにしても」御者台で手綱を握るフランツは、左右に座るシャーノとルシェを交互に見た。「大きな猫が二人もおられるとは」
シャーノとルシェはフランツを見て、首を傾げた。「いや、弟子を取られるとは思いもしませんでしたのでね」
「師匠も同じことを言います」シャーノは苦笑いをしながら答えた。「私には向いてないって」
「は、は。よく'猫の世話で手一杯だ,と、3代目様に手紙が届くそうですよ」フランツは穏やかに笑う。
「3代目さんも、弟子を取られていたのですか?」ルシェは聞いた。
「おや、聞いておられませんでしたか。三代目様は歴代魔女で一番多く弟子を取られておりました。確か、6人だったそうですよ」6人も。と、ルシェは驚いた。
「毎日食事が賑やかそうですね」
「ええ、三代目様は長らく旦那様と別居されていたそうなので、たいへん喜んでおられましたな。志願した者は皆迎え入れておりました。皆一人立ちされましたが、3年ほど前に戻られた方を、城へお手伝いとして一人雇っておりますな」
もう一度二人を交互に見て、フランツは微笑んだ。「三代目様も、少しは安心なされるでしょう」
「心配事があるのですか?」シャーノは聞いた。
「3代目様にとって、それはそれは可愛い愛娘であられますからな。心配事が尽きることはまず、ありますまい」
「いい迷惑なのだけれどね」御者台の後ろにある木窓が開いて、ヤエが顔を出した。「あまり変なコト教えてはダメよフランツ」
「は、は。心当たりがおありのようですな、四代目様」
「城に行く度に質問攻め。あまり行かないようにしていたのだけれど」ヤエは困った顔をした。
「あまり猫ばかりにかまけているのも考えものですな」
「魔女にお小言とは、怖いものなしねフランツ」フランツの大きな帽子を引っ張って、ヤエは目を細めて微笑んだ。
慌ててフランツは謝った。師匠が客以外とのやりとりを見るのは久しぶりなので、弟子二人は黙って見守るしかなかった。




