荷物が多いこともあって…
荷物が多いこともあって、いつもより森を抜けるのに時間がかかった。道端の野草の名と使い方を教えながら進み、そうこうしている内に野原を抜けた。村と村はずれの境界である大きな木の下で、馬車が待っていた。こげ茶色のしっかりした2頭の馬の傍に、鍔広の帽子をかぶった初老が佇んでいる。
ヤエ達が近づいていくと、初老は帽子を胸元にペコリと頭を下げた。
「お迎えにあがりました。私は―」「城下町の8番通りにあるわね」と、初老の自己紹介をヤエは遮った。
「副店長自らなんて、仰々しいのね。荷馬車でもよかったのだけれど」
「城の主からのご依頼ですからな、4代目様」皺を深くして、初老は微笑んだ。「馬車屋の名にふさわしいものを使わなければ。…しかし、私のことまでお手紙に書かれていたわけではありますまい」
「魔女の名にふさわしい振る舞いをしなければね」言葉を真似て、ヤエも微笑む。「以前、お城で見かけただけ…さあ、荷物をお願い」
弟子二人はヤエの荷物を受け取って、荷馬車に積んでいく。
「左様でしたか。いや、驚いてしまいます。ああ、割れ物はこちらに」
初老は手際よく荷物を仕分けていき、副店長としての働きぶりをしっかりと果たした。ヤエは切り株に座って作業を面白そうに眺めている。黒ぶち猫が自ら荷馬車に乗り込んだところで、出発の準備が整った。
黒ぶち猫がしっかりと自分の場所を確保していて、自然とヤエがその隣に座る。
「二人とも、馬車は始めてなのね」小窓の日除けを開け留めながら、ヤエは二人に言った。
「はい」シャーノとルシェは声をそろえて頷く。荷馬車で移動したことのほうが多いのだが、頑丈で広々とした馬車に落ち着かない様子だった。ルシェはキョロキョロと内側を観察している。
「この馬車はとても豪華だから、ちゃんと覚えておくこと。あとで特徴を聞くから、しっかり見ておくように」
馬車が揺れ、御者台に初老が乗ったようだ。「それでは、出発いたします」木目の向こうから声が聞こえた。
「ええ、よろしくお願いします、フランツさん」
馬の手綱を握る初老フランツは、先ほどとは逆に目を丸くした。
2頭の馬は歩き出し、ノート・ロナイへの道のりを辿った。