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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
6章:羊皮紙の長旅に天風は吹き抜ける
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ヤエは目を細め…

ヤエは目を細め、ユイは振り返った。奇妙な紋様を浮かべた男の顔と、その手に、白雪が指す幅細の剣。


 剣へと映る雪が、体に刺さる。ユイはそれを確かに避けた。しかし、ヤエがそれを阻んだ。嗄れた声が千切れ、血が喉へ上がる。


 男は剣を引いたが、それは抜けなかった。顔を上げ、体を離し、腰に下げたナイフを手に確かめた。

そしてもう一度前を確かめた時、彼は確かに、流れるような雪を見た気がした。


 白髪の魔女だと、男は気が付かなかった。肋骨の少し下を穿たれて、男は崖の下へ落ちた。一言、「魔女」と叫びながら。



 体をくの字に曲げて、魔女ユイは剣を引き抜いた。絶え絶えに息をしながら、老婆は杖にしがみついて膝を付けない。


「ヤエ…」うつむいた顔から目だけを輝かせて、ユイはヤエを見た。


「内側をどんどん腐らせて、崩す。魔女の名にふさわしいのね」


「…ああ、そう…ね。私の、娘子の中で…一番、あなたが聡いことを…忘れていた…」


「悪いけれど、もうたくさんなの。母親の言いなりになるのも、祖母の監視の下で暮らすのも、自分の子孫を根絶やしにしようとする曾祖母の手伝いをするのも…」


 ガツ、と音が響いた。


 雪が沈む。


 拙い足取りだ。


 振り上がる杖が、ヤエの方を向こうとする。


 ヤエはその場で振り返るとき、


 フロリベルの装飾短剣が、老婆の心臓を貫いた。


 ユイは空気と一緒に、もう一度血を少し吐き出した。少しだけよろめきながら、よたよたとヤエに近づいていく。


 ヤエはそれを見ないように、もう一度崖の方を向いた。雑音が下から聞こえてくる。「合理的で、理知的ね。復讐って」


「…何、よ」


「憎しみだけでは力を得られないもの。フロリベルを崩して、徒党を組んでロナイ城まで攻撃して、私の家を焼いて…もう良いでしょう?」


「…ええ。でも…そう、ね。一つだけ、貴女に…勝てそうね」


「私に勝つ?」


「変わらず、ここが…冬の森も、私の、魔女の…庭で」


 ユイは、振り上げた杖を振り下ろした。とっさにヤエは頭を庇ったが、それが仇となってしまった。



 杖はヤエの頭を狙っていなかった。


 杖が足元に刺さり、雪が割れる。


 この崖の淵、雪の下が地面ではない事を、この時ヤエは初めて知った。

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