寒々しい…
寒々しい雪の気配は、ピタリと止まって動かない。ようやく陽が登ろうと、雲を下から照らしているのが見えた。それくらい、空が澄んでいる。雪雲は流れて、やっと今年の雪の寒さを逃れることができるようだ。魔女の家は壊れてしまっているから、また寝床を借りなければならない。
前を歩く二人は、押し黙ったままだった。老婆は器用に杖で先陣を切り、もう一人の男は、斜め後ろを淡々と付いていく。そこから3人分の歩幅の後ろを、魔女は歩いていた。男の顔には、奇妙な紋のようなものが、うっすらと浮かんでいる。
大きな崖の切れ目は、積もった雪を流れ去っていく。間を通る湧き水の川は、大きな音を立てて飛沫を巻き上げ、溶け出した雪を集めて賑わっていた。木々がそこを避けているので、三人はその側を歩く。
歩いてきた方向から、ガシャ、と大きな音が聞こえた。それに振り返った老婆は、立ち上る白い煙を少し眺め、ヤエの方を向いて言った。
「逃したのね」
「ええ」ヤエは答える。
しばらく老婆は黙って、笑った。「ふふ、段々と、余裕がなくなってきた証拠ね、私も」
「あの二人は、私の子供ではないわ。初代魔女」
ヤエがそう言うと、飛沫の音だけが少し響いた。それを確かめるように、ヤエは崖の縁へとゆっくり向かう。
「どうして、私が魔女だと?」
老婆の隣に居た男が、驚いた表情で老婆を見る。
「初めて連絡が来たときは、一体どこの誰かと思ったけれど…少なくとも逃げ道を知っているのなら、話が早い」
「決め手がそれでは、少し弱いわ」
「ルフォロ・ツィーロの鎧は次期当主を決める際に着られるもの」
「他には?」
「シトスの街で私を捕まえようとした」
「それだけ?」
「あなたの目的は復讐だ」
老婆の魔女は、今度は何も尋ねなかった。代わりに、ゆっくりとヤエの方へと歩く。
「お飾りの領主に肩書を付けるために、村が標的になった。その時の戦利品に、あなたは含まれていた。どうにかして逃げ出した頃にはもう、ニーエを」
「そうよ」老婆はヤエが喋るのを遮って、言った。「慰みものから参謀になるまで、とても苦労した。内乱で、国はもうすぐ滅ぶでしょう。忌々しい体制はなくなって、土地はそれぞれ最寄りの国が接収し、跡形もなくなる」
魔女はヤエの前へ立ち、杖を両手で支えた。
「けれど、血を絶やさなければ、私は死にきれない」
「知りません、そんなの」ヤエは笑った。「私が生きていくのに、関係がないわ。それに家族ではない名前を、言う必要もない…そうでしょ、ユイおばあちゃん」
「そうね」魔女ユイも、釣られて笑った。「律儀な娘子ね。…それ、ニーエも守ってるの?」




