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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
6章:羊皮紙の長旅に天風は吹き抜ける
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寒々しい…

 寒々しい雪の気配は、ピタリと止まって動かない。ようやく陽が登ろうと、雲を下から照らしているのが見えた。それくらい、空が澄んでいる。雪雲は流れて、やっと今年の雪の寒さを逃れることができるようだ。魔女の家は壊れてしまっているから、また寝床を借りなければならない。


 前を歩く二人は、押し黙ったままだった。老婆は器用に杖で先陣を切り、もう一人の男は、斜め後ろを淡々と付いていく。そこから3人分の歩幅の後ろを、魔女は歩いていた。男の顔には、奇妙な紋のようなものが、うっすらと浮かんでいる。


 大きな崖の切れ目は、積もった雪を流れ去っていく。間を通る湧き水の川は、大きな音を立てて飛沫を巻き上げ、溶け出した雪を集めて賑わっていた。木々がそこを避けているので、三人はその側を歩く。



 歩いてきた方向から、ガシャ、と大きな音が聞こえた。それに振り返った老婆は、立ち上る白い煙を少し眺め、ヤエの方を向いて言った。


「逃したのね」


「ええ」ヤエは答える。


 しばらく老婆は黙って、笑った。「ふふ、段々と、余裕がなくなってきた証拠ね、私も」


「あの二人は、私の子供ではないわ。初代魔女」


 ヤエがそう言うと、飛沫の音だけが少し響いた。それを確かめるように、ヤエは崖の縁へとゆっくり向かう。


「どうして、私が魔女だと?」


 老婆の隣に居た男が、驚いた表情で老婆を見る。


「初めて連絡が来たときは、一体どこの誰かと思ったけれど…少なくとも逃げ道を知っているのなら、話が早い」


「決め手がそれでは、少し弱いわ」


「ルフォロ・ツィーロの鎧は次期当主を決める際に着られるもの」


「他には?」


「シトスの街で私を捕まえようとした」


「それだけ?」


「あなたの目的は復讐だ」


 老婆の魔女は、今度は何も尋ねなかった。代わりに、ゆっくりとヤエの方へと歩く。


「お飾りの領主に肩書を付けるために、村が標的になった。その時の戦利品に、あなたは含まれていた。どうにかして逃げ出した頃にはもう、ニーエを」


「そうよ」老婆はヤエが喋るのを遮って、言った。「慰みものから参謀になるまで、とても苦労した。内乱で、国はもうすぐ滅ぶでしょう。忌々しい体制はなくなって、土地はそれぞれ最寄りの国が接収し、跡形もなくなる」


 魔女はヤエの前へ立ち、杖を両手で支えた。


「けれど、血を絶やさなければ、私は死にきれない」



「知りません、そんなの」ヤエは笑った。「私が生きていくのに、関係がないわ。それに家族ではない名前を、言う必要もない…そうでしょ、ユイおばあちゃん」


「そうね」魔女ユイも、釣られて笑った。「律儀な娘子ね。…それ、ニーエも守ってるの?」

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