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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
6章:羊皮紙の長旅に天風は吹き抜ける
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「珍しいところに…

*おそらく誰かが付いているので、あとで知ることができるだろう*

「珍しいところに出てくるものだ!」そう言って、ペトラはいつもどおりの笑顔を向けた。「随分な格好だな。死人が蘇ったように見えなくもない。ふん、つまり、この霊標から出てくるということは、それなりに緊急事態だということだな?」


 雪上を跳ねながら寄ってきたソリューとムティを拾い上げ、両肩に載せる。初めてペトラの家に行くとき、ソリューはルシェが抱いて行ったものだが、知らない間に仲良くなっているらしい。ムティは頭を振って雪を撒き散らし、ソリューは肩の上に張り付いてこちらを振り返った。他の猫達も、足元へ寄っていく。


 明るい所へ出て、改めて互いに顔を見合わせた。シャーノもルフォロも、あちこちが煤と埃で焦げ茶色になっている。おそらく自分もそうなっているのだろう。やけに外の空気が心地よく吸えたからだ。


 シャーノが山になっている雪を退けると、切り株が出てきた。それに習ってルシェも座り、やっと一息ついた。足を畳んで、冷たい雪から離れる。


「あれは手遅れだな」ペトラは視線を少し上げた。振り向くと、煙が雪の隙間から次々と巻いて、空の灰色に混じっていくのが見えた。「何かやらかしたのか?」


「わからないんです」ルシェは答えた。「えっと、夕食の最中に倒れて…そうだ、師匠を知らないですか?」


「ん?ワシの愛弟子なら、とっ捕まえた傭兵共をワシに丸投げして、こっちに戻っておるはずなんだかな。フランツにまで手伝わせて…荷台がいっぱいだ」ザクザクと雪に穴を開け、ペトラはソリューをルシェに渡した。暖に使えということらしい。


 ソリューを受け取って、ぼんやりと煙のほうを眺める。膝の間にすっぽりと収まって、暖かかった。丁度山間を割いた光が煙を下から照らして、それをくっきりとさせた。どうやら、朝日が登ってきたらしい。煙の中心にある大木が軋んで、ゆっくりと葉が見えた。すると、バキバキと大きな音がして、煙は急に真っ白なものに変わった。



 林道へと戻り、4人が急いでそこへ向かった。段々とそれが見えてくると、それぞれの足取りは重くなり、やがて井戸のそばで自然と止まった。トーナが井戸の影から出て来るのを見つけると、ソリューはスルリとルシェの腕を抜けた。


 二匹が挨拶するのを見届け、ルシェは前を向き直した。そこにあるはずの家が半分、無くなっている。真っ黒な表皮を見せた大木の下に、大量の雪と木々の残骸が積み上がっていた。ところどころ、雪の隙間から柱のようなものが突き出して、その合間から、焼けた雪が白い煙に変わって大木をさらに温めている。それに従うように、雪の塊がボサボサと落ちてきていた。


 それは見慣れているようで、そうではなかった。全て焼けてしまうのは何度も見ているが、雪に押しつぶされた家というのは、なんとも生々しい。玄関から広間まではすっかりと潰され、2階にあるヤエの寝室が半分崩れ、むき出しになっていた。広間の屋根に引っ張られて壊れたらしく、壁にかけてあった飾りが飛び出し、ベッドが片足で引っかかっている。



「シャーノ」スルリと歩み出たシャーノを、ルシェは呼び止めた。「危ないから…」


「居ない」シャーノは再び立ち止まって、言った。「セネルが居ない。多分、師匠が乗って行ったんだ」

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