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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
6章:羊皮紙の長旅に天風は吹き抜ける
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ルシェは楼台を…

*馴染みの顔を見つけると、きっと彼らも、そして我々も、嬉しいものだ*

 ルシェは楼台を掲げた。通ってきた道が狭かった分、その空間は広く見えた。正方形に近い空間で、シャーノと並んで両手を広げると、ちょうどそれくらいの幅があるだろう。高さはルフォロと同じくらいで、頭をたまに擦っている。あたりを見回してみると、先ほどの通路と同じように、鉄カゴが壁にあった。他には、砂埃の積もった椅子が2つ、転がっているくらいだった。


「階段がある」


 ルフォロが言った方向に楼台を向け、ルシェもそれを見つけた。奥に短い通路があり、天井へ伸びる階段があった。通ってきた道とは違って、横並びに平たい石がびっしりと並べて積み上げられていた。


「行き止まりかな」シャーノはペタペタと壁を触った。「寒いね、ここ」


「うわ、手が真っ黒だよ、シャーノ」ルシェは気づいて楼台を近づけると、シャーノの手は煤汚れでパサパサになっていた。「大丈夫?」


「うん、大丈夫だけど…いつ付いたんだろ。あ、ルシェも真っ黒だ」


 ルシェも楼台を持っていない方の手を見ると、同じように煤で汚れていた。ルフォロもそれに習って、真っ黒になった自分の両手を眺めている。


「さっきの通路で付いたのか。随分古いようだし…」そう言って、ルフォロは上を見た。「この階段、上に上がれるんじゃないかな。ちょっとそれ、貸してくれないか」


 ルシェは楼台を手渡した。ありがとう、とルフォロはそれを受け取り、壁に近づけたり、天井を照らしてみたりしていた。



 小さな通路は狭く、ルフォロの邪魔になりそうだったので、シャーノとルシェは大きな空間に戻ってきた。改めてルフォロの居る通路を見ていると、やはりそちらから風が吹いているようだった。シャーノの前髪がふわふわ浮いている。シャーノはルシェの視線に気づいて、こちらを見ようとしたが、急に咳込んだ。


「大丈夫?いっぱい吸っちゃったかな」ルシェはシャーノの背を軽く叩いた。


「ああ、もしかして、気付けの…なんだっけ」言葉の合間に咳き込みながら、シャーノは言った。


「そう。たしか、廊下の棚に詰めてたから…火事で蒸されたみたい。私もそれで起きたし」


「家、大丈夫かな」シャーノは振り返って、暗い通路を見た。


 ルシェは直接廊下の奥を見たわけではなかったが、おそらく無事ではすまないだろう。それはルシェの経験からだった。シャーノもルシェも、フロリベル中を移動してきた。野盗や空き巣は日常茶飯事だったし、ルシェは家も両親も燃やされてしまっている。


 思い出して、少し身震いした。


 風化した記憶だ。灰色のそれらの、一部に色が付いている。


 そう、何もかも赤かったことを思い出す。


 燃える壁の赤だっただろうか。


 床に広がる血の赤だったろうか。


 急に息苦しくなって、喉に手を当てる。


 シャーノがそれに気づいて、心配そうにこちらを覗き込んだ。



 その時、脛のあたりに、得も知れぬ何かが触れて、ルシェは飛び上がった。

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