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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
1章:鳩をあなたに
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荷造りを終えたルシェは…

 荷造りを終えたルシェは家の裏庭―といっても森全体が庭のようなものだが―へ出ていた。普段餌をあげている鳥のうち、鳩だけを捕まえて籠に入れるのだ。三代目魔女が使うから健康なのを2,3羽くらいとのことだが、ルシェにとっては大事な鳥達なので何とも不安そうな顔をしつつ籠に詰めている。数週間前から、餌の時間に帰ってくる鳥の数が減ってきていたのだ。


 ルシェは餌を撒いて鳥達を集め、元気な鳩を選んだ。籠に鍵をしっかりかけ、ルシェの身の丈と同じくらいの棒にくくりつけて家へ戻った。鳩はおとなしく、籠に揺られていた。猫達が興味深げに付いて来て、テーブルに置かれた籠を囲んでじっと鳩を見ている。


「食べちゃダメだよ」とルシェは言って、テーブルの端に座っていた猫を優しく撫でた。いつだってルシェは撫で方が優しい。


 空気の冷たさが昼前になっても残っていて、何匹かの猫達は暖炉で円弧を描いたままだった。その後ろで、荷造りを終えたヤエが足りない野草や香草の種類と量を言い、それをシャーノがメモしていた。旅の目的は鳩を届けることだが、ついでに買い付けもしていくつもりらしい。


 弟子の2人が旅へ同行したことは三度ほどあったが、買い付け以外の目的で旅立つのは初めてだった。鳩以外の届け物もあり荷物は多く、2人はカバンを背負っているのか背負われているのかわからない。

 

 それでも荷造りは手早く済み、日が登り切る前に出発することができそうだった。手紙を届ける御者は昼過ぎまで休憩してから領主のいるノート・ロナイ城へ戻るはずなので、それに乗るようにと手紙にあった。なんとも急な話である。


 暖炉の残り火に灰をしっかりかぶせ、シャーノは荷物を背負い直した。


「それじゃあ、留守番をお願いします」


 そうヤエが言うと、次々と猫達は足早にドアをすり抜けて外へ出て行った。三代目が何度か閉じ込めてしまったことがあるらしく、彼らも誰が家主なのかを理解しているようだ。


 4匹の猫が、ヤエの足元で留まった。


「今回は、君ね」その中から一匹、ヤエは一番若い猫を抱き上げた。


 旅の同行には、生まれて一年ほどになる黒ぶち猫を連れて行くことになった。毎回遠出をする際には猫達に留守番を頼み、付いて来たがる猫達のうち一匹だけをヤエの背負うカバンに載せて行くのだ。居心地悪そうに踏ん張って乗り続けていたり、一緒に歩いたり、ヤエに抱っこされたりしながら彼らは一緒に旅をする。


「さて、行きましょう。荷物が多いから、疲れたらすぐに言うように。今回はほとんど荷台に乗っているだけで済むだろうけど、4日くらいはかかるはずだから」


 

 魔女の家を出発し、杉の並木の間に三人の足音が静かに響いていた。陽がしっかり道を照らして暖かく、歩き始めたことで心地良い涼しさになった。


 ふと、ルシェがヤエに聞いた。


「三代目さんは、どんな方なんですか?」


「んー、そうね」少し考えて、ヤエは言った。「変人ね」


 シャーノはチラリとヤエを盗み見たが、ばっちりヤエにバレていた。


「とにかく奇抜。特に調合は、今まで試してこなかったようなものばかりをする人だった。その分失敗のほうが多くて…私の髪が白いのも眼の色が薄いのも、三代目のせいなのよ」


 ルシェは驚き、聞いた。「なんの実験でそうなったんですか?」


「白猫が大好きらしくてね」ヤエは困った顔をした。「毛の色を薄くしたいって言って、色々試してたわ。で、私の櫛で猫の毛を梳かしていたらしくて。猫用の薬がそのままついていて」髪を弄くり、ついでに背の猫を撫でた。


「気づけば真っ白。色を付けたりもしてみたけど、生えてくるものも真っ白だし」


「怖いですね」ルシェは目を丸くしたまま言った。


「大丈夫。鳩を食べたりしないはず」そう言って、ヤエは微笑む。「真っ白にはされるかもね」


 籠の鳩がバタついた。

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