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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
6章:羊皮紙の長旅に天風は吹き抜ける
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「順調そうね」…

*私達は新たな約束を得たのだから、少なくとも、迷うことはない*

「順調そうね」嗄れた老婆の声が言った。


「ええ」ヤエは短く答える。


「…まるで未練が感じられない」


「そうかしら。私は、ここを気に入っているのだけれど」


「ふん。まぁ、いずれ、どうでもよくなる」


「そうね」



 玄関が開き、杖を突いた老婆が出てきた。窮屈そうな真っ黒なローブをすっぽりと被り、雪の深さを確かめるように、コツコツと地面を刺す。そのままゆっくりと井戸の方へ向かい、縁に座っていた猫を杖で追い払った。


 そのすぐ後に、魔女の家の窓から仄暗さが消えた。揺らめくような灯火は鳴りを潜め、随分大げさな橙色が、未だに降る雪にまで色を映した。両腕を払いながらヤエが出てきて、老婆を見つけた。


「いいでしょう」老婆は言った。「さ、次に回りましょう。後始末をしなければ」


「ええ」ヤエも答える。


 ヤエは、井戸の近くにある切り株に猫を見つけた。先ほど追い払われた猫だ。それに近づいて、両手で耳元を包み、ヤエはそっと何かを囁いた。


 猫は一声、ニャーと鳴いた。



 鼻に付くような鋭い匂いで、ルシェは飛び起きた。地面が揺れたように感じたが、見覚えのある肘掛けを見つけて、揺り椅子だと判る。次に本が落ちているのを見つけ、顔をあげた。朦々と煙が染み出していた。


 仄暗い石壁の上は板張りになっている。その隙間から次々と黒い煙が現れて、上へ登り、向こう側へ吸い込まれていた。幸いこちらには流れてこない。それらを瞬きの間に観察し終えて、ルシェは左右へと首を振った。右には、ルフォロが付けていた鈍色の鎧がいくつか転がっていた。そして左に目を向けた時、視界の隅、作業机の影に、2つの足が投げ出されていた。


「シャーノ!」ルシェは揺り椅子から跳ねて、シャーノに近づいた。揺さぶろうと肩を持つと、それが十分に温かいことがわかった。両手で頬を挟み、再確認する。次に鼓動を確かめ、ルシェはひとまず安心した。「シャーノ、起きて!家が燃えてる!」


 ペシペシと頬を叩くが、一向に目を覚まさない。


 3回ほど試した頃、転がっていた鎧の向こうから、ルフォロがゆっくり体を起こしてきた。「ひどい匂いだ」と言いながら頭を振り、緩慢な動作であたりを見渡す。


 それを見たルシェは、シャーノの両脇に腕を通して抱え、廊下へ続く扉へと引きずって行った。ルフォロはそれをぼんやりとした目で見つめている。途中、ツンとした匂いが漂って、ルシェは少し咳込み、シャーノは呻き声とともに目を覚ました。


「うぇっ…何、この臭い…」


「シャーノ!シャーノ!火事だよ!」ルシェはシャーノを降ろして、叫んだ。


「火事?」シャーノは頭を振って、あたりを見渡した。壁から煙が湧いているのを見つけると、「うわ、本当だ」と言って驚いた。


「それ、開かないのか」ルフォロは扉に向かいながら、言った。ドアノブはいつものように動き、扉は少し開いて、すぐに何かにぶつかった。


「これ、壊してもいいなら、何とか出られるけど…うわ」ルフォロは鼻を塞ぎながら、廊下を覗き込んだ。「これは、厳しいな」


「そんなに燃えているんですか?」シャーノは聞いた。


「ああ。とてもじゃないが、広間の方には出られない。見るか?」ルフォロは言って、そこから退いた。


 シャーノが代わって、奥を覗く。「棚が支えてて、開かないんだ」

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