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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
5章:雪道に陰る暗がりの杖
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ツィーロは旅慣れた…

 ツィーロは旅慣れた行商人の体を装って、村を散策していた。時折、細い路地へわざと入ってみたり、道からは見辛いところを覗き込んでみたりしていた。明らかに怪しい動きだったが、ちゃんと周囲を見渡して、誰も居ないことを確認してから行っている。


 覗き込んだ先で、ピタリと体が止まった。小さな路地から猫が飛び出して、するりとツィーロの足元を抜ける。それを目で追いかけて、彼はため息を付いた。少し驚いたらしい。


 その猫に付いて行くふりをしながら、ツィーロはどんどん小道を進む。塀の側をぐるりと回り、家々の間を抜け、小さな柵を乗り越え…最後に村の雑貨屋でどっさりと小物を買い込んで、彼はそれを荷馬車へ運んだ。



 ドサ、と彼はそれらを置いた。ふと顔を上げると、御者台の縁に真ん丸な目が二つ、こちらを覗いていた。猫は大きなあくびをして、モゾモゾと縁から消えた。代わりに足の裏が見えているので、ひっくり返って寝ているのだろう。


 それを確認しようかとツィーロが考えていると、その隣にもう一匹、昨晩の猫が現れた。顔を丁寧に洗って、時たまツィーロを見る。


「ああ…なんか、たくさん居るね、この村は」


 そう呟いて、ツィーロは買い込んだ小物の中から、川魚の干物を出した。半分に千切って、縁の側に放る。放物線を描いて落ちたそれを猫は黙って見つめ、ひょいと縁を乗り越えた。ツィーロはそれを眺めて、もう半分を噛む。


「さて、下見はしたけど、森の連中は連絡どころか消息もわからないし、依頼主の魔女さまは居られないし、鎧は重いし、散々だなぁ」荷台に腰掛け、御者台の方を振り返る。「帰ってもいいと思わない?」


 猫の顔ほどの干物を咥えて、昨晩の猫は御者台に降りるところだった。寝ていた猫が起き上がって伸びをし、咥えている干物の匂いを嗅いでいる。


「日も暮れてきたし、ひとまず戻ってお礼を言って、今晩中に仕上げてしまおうか」


 そう言って、ツィーロは荷台を降りた。荷台に残した干物を食べられないように奥へ押し込み、村長の家へと振り向く。数歩と歩かない内に、彼は冷たい夜風が運んだ雪を見つけた。



 そして、凍える夜へと差し掛かるその前。


 雑貨屋でたくさん買い物をしたツィーロを見て、村長婦人が面白い店があることを教えてくれた。そしてそのついでに、店の主であるデイ・ノートの魔女が忘れた荷物を村長から受け取り、彼は黄昏の終わりに、ようやく魔女の根城に足を運ぶことになった。

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