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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
5章:雪道に陰る暗がりの杖
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暗がりを照らしながら…

 暗がりを照らしながらシャーノが扉を開けようとした時、何の手応えもなくそれは開いた。見上げるとそこにヤエが立っていて、双眸にかかる長い睫毛と白い髪に、埃が幾つか付いていた。


「びっくりした、という顔ね」立ち尽くすシャーノの頭をポンポンと撫でて、ヤエは言った。「棚を動かすから、手伝ってくれる?ルシェも呼んできて」


 ひとまずシャーノは頷いて、ルシェを連れてきた。「ずっと居たんですか?」と、少女は不思議そうに尋ねる。少なくとも、ルシェには人の気配が感じられなかったのだろう。


「そうよ、隅の方で寝ていたの」ヤエはニコリと微笑んだ。「明日お客さんが来るから、在庫整理のついでに棚を移動するわ。2つは広間に、もう1つは、この部屋の前に置くから…2つ運んだら、ルシェは夕食をお願い。最後の一つは軽いけど、部屋の奥にある棚だから」


 

 翌朝からは忙しかった。模様替えと称し、ヤエは調合室の中から文字通り山程材料を抱えて、昨晩移動した棚に詰めていった。それだけでは入りきらず、小さな籠に小分けしたり、瓶詰めにしてみたりと試行錯誤して、商談用のカウンタ・テーブルも埋まってしまうほどになった。


「こうして見ると、春の野草ばかりですね」シャーノが瓶に栓をしながら尋ねた。「全部調合室から出しちゃって良いんですか?」


「ええ。ある程度古いものならどうにか使えるけれど、どうにもならないものは捨てなきゃならないし…春になれば、また新しいのを摘めるから。あ、ルシェ、6番の棚と19番を全部運ぶから、持ってきてくれる?シャーノは、それ全部、お願いね」ずらりと並べられた空き瓶を一目見て、シャーノは頷いた。



 呼ばれたルシェが、小走りにヤエについてくる。昨晩運びだした大きな戸棚をすり抜けて、ヤエは調合室の扉を開いた。毎回、開ける度に違った香りが漂っている。今は模様替えを経て、入って手前の方はすっかり物がなくなり、奥には何とか歩ける空間だけを残して物が配置されていた。


 棚の殆どを部屋の奥に追いやったため、ヤエの目線くらいまである石壁を眺めることができた。それは調合室が半地下であることを思い出させ、独特の空気にも変化が見られた。ルシェはぐるりとそれらを見渡して、番号の棚を見つけた。ヤエは奥の作業台へと向かう。


 ルシェが次の指示を仰ごうと振り向くと、ヤエはしゃがんで、揺り椅子の下に手を伸ばしていた。そのまま眺めていると、パチ、パチと金具を外す音が聞こえた。ヤエが立ち上がった時、手には1冊の本があった。ヤエは丁寧に裏表紙を捲って、羽ペンを当てながらルシェの元へと歩いてきた。

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