時折、丸々とした…
時折、丸々とした雪が視界を遮った。柔らかくそれは降り注いで、音もなく積み上がっていく。白い息を確かめながら、男はのんびりと村へと入った。
「こんばんは」
女性の声だった。それは全く気配を感じさせず、突然だった。男は振り返って、自分に声をかけた人物を見る。荒い毛皮のフードを目深に被り、伺うようにこちらを見て立っていた。手には籐の籠を持ち、中には小さな木箱と幾つかの野菜が入っている。
「ああ、こんばんは。こっちは、ずいぶんと降りますね」苦笑いで、男は答えた。
「ずっと、村の外で寝泊まりしてるみたいだけど…何か探しものですか?」
「ええ、昔、この辺りで工芸品を作っていたという話を聞きまして。行商に伺ったのです」
「工芸品かぁ…うーん」女性は首を傾げて、すぐにそれを戻した。「多分、何十年も前の話じゃないかなぁ…お年寄りの人に、そういう話を聞いたことがあるけど」
「そうですか。…何か、特産品とか、ありませんか?荷台に何も積んでいないのも、物寂しいですし」
「この村は、ロナイ城の城下町で管理しているようなものだから…だいたいの物は直接やり取りしているの。ごめんなさいね」
「はぁ、そうですか。参ったなぁ」男はボリボリと頭を掻いた。ギギ、と鎧が軋む音が鳴る。
「毎年、あと3日くらい雪が続くの。宿は無いから、村長さんのところに泊めてもらってね。そこのお家だから」
「わかりました。ありがとうございます」男はニコリと笑って、お礼を言った。
「じゃ、私、もう行かないと」
「ええ、お気をつけて」
「あ、そうだ」何歩か歩みを進めて、女性は振り返った。「特産品じゃないけど、変なものを売ってる人が居るの。村の奥にある森に居るけど…確か、明日の夕方まで戻らないらしいから。それじゃあね」
そう言って、女性はヒラヒラと手を降って、道の角を曲がって行ってしまった。男は溜息をついて、夜の寒さを再確認する。すると、すぐそばの家の戸が開いて、中から人がこちらを覗き込んだ。
「あら、旅人さん?」それは先程、村長の家と言われていた場所だった。「この村は宿がないから、こっちへどうぞ」
「ああ、すみません。今、その話を教えてもらいまして…」
幾つかの足あとと不揃いな穴を見ながら、ヤエは魔女の家へと急ぐ。足あとはシャーノかルシェ。不揃いなのは、猫だろう。似たようなものを作りながら、後ろから追いかけてくる。それを抱き上げて、ヤエは毛皮の中で暖めながら歩いた。林道に差し掛かると、木々が雪を背負い込んで道を作っていた。パリパリに凍った上をしっかりと踏みながら、ヤエは空を見上げる。
「君たちにも、負担がかかるね」
そう呟いて、ヤエは猫を抱き直す。不満気な声が上がったが、すぐにおとなしくなった。




