「朝食を食べ終わったら…
「朝食を食べ終わったら、荷造りをするから」
そう言われて、シャーノとルシェはやっと背負えるくらいの大きな袋を渡された。このサイズのを渡されるということは、そこそこ遠出をするのだろう。たまにこういうことがあるのだが、決まってヤエの説明は足りない。大抵は二ヶ月毎に雑貨を買い付けに行くが、今回はそうではないらしい。
「魔女の家」などと大げさな名前を付けられているが、実は薬草を扱う雑貨屋である。
ヤエは四代目の魔女で、受け継いできた薬草の調合書を書き足したり直したりしてきた。店を始めた二代目は純粋に薬草と調合品だけで生計を立てていたが、それに飽き飽きした三代目が遊びで焼いたパンを売ったり村の祭りで屋台を出したりと、割と好き放題にした。それを見ていたヤエは、逆にひっそりと運営する方針を固めていたようだ。
奔放な三代目に代わって、ヤエは魔女の家の噂にふさわしい怪しさをもって商売をしていた。噂はほとんどが身も蓋もないものばかりで、どんな病も治す薬や魔術に使う道具、猛毒を放つ煙などなど挙げだすとキリがない。
シャーノもルシェも薬品の調合を手伝うことが多いので、弟子としては不本意極まりないようなのだが、当の魔女は面白そうにしているのでどうこうすることでもなさそうだ。
そして魔術に使う道具などと言われているものを買い付けるのが、ヤエの趣味であり商売だった。特に精巧な工芸品を好んで選ぶため、初めて見る人にとってはどうやって作ってあるのかが解らない。不可思議で綺麗なものばかりが並ぶので、魔女の家はちょっとした展示会場のようになっている。しかもそこに香草の匂いと怪しげな暗がりがあるので、足を運ぶ客は自ずと風変わりな人が多くなる。
ヤエはそういう人物から面白い話を聞けるし、客は変わった品を買えるし、ついでに薬も売れる。たまに、デイ・ノート村が属している領主から視察が来るのだが、四代目となると領主も知った顔ということでまったく警戒されていない。しかも三代目が領主に仕えているので、薬の効果にお墨付きが貰えるほどである。
今朝の手紙は、奔放な三代目の魔女からであった。最近は鳥の生態や鉱石に興味があるらしく、とうとう落ち着きの無さは性格から扱う品物にまで渡っているようだと、ヤエは呆れていた。