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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
5章:雪道に陰る暗がりの杖
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ルシェが扉を…

 ルシェが扉を開けると、外よりも乾いた空気が漏れ出てきた。部屋は暗く、まだ家主が帰ってきていないことを知らせる。ヤエの外履きも無かった。


 トントンと足音を立てて、奥の廊下の方から三匹ほど猫が出迎えた。靴を脱ぐルシェの足元に絡って、それを邪魔する。ふらつきながらなんとか脱いで、中履きに履き替えた。


 灰の中で燻った薪を掻き出して、火を起こす。火が藁から枝へと移る頃には、冷え切った体も温まってきていたし、足下の猫は五匹に増えていた。少なくとも、彼らのおかげで足元は暖かい。そのまま炉火をかまどに移して、温めておく。


 手持ちの楼台に明かりを乗せ、暖炉のそばで椅子に座った。時折玄関脇の小窓を見ては、誰かが戻るのを期待している。


「そういえば」ルシェは足下と、膝に乗る猫を順に撫でた。「皆、名前が無いね」


 ルシェがそれぞれの猫を見分けられるようになるまで、半年近くかかった。未だ間違うこともあるが、特に困ったことは無い。意外なほど、顔形や仕草に違いがある。


「君たちにも、付けられないかな?」


 ヤエがそうしているので特に気にならなかったが、馬に名付ける時も積極的ではなかった。


 膝の猫がグルリと寝返りをうって、お腹を見せた。それをワシャワシャと撫でると、両手足でしがみついて甘噛をしてくる。


 それをあやしながら、ニーエとの会話を思い返す。もし、二代目のニーエと同じ考えでヤエが名付けをしないのならば、ルシェもシャーノも、まだ魔女の家では認められていないということだろうか。あるいは、ヤエ独自の考え方があるのかもしれない。


 シャーノにそれを教えるとどうだろう、と少し悩んだ。きっと少し寂しそうに、首を傾げて笑うだろう。そんな気がした。そうして、もう一度玄関脇の小窓を眺めると、手提げの楼台を片手にシャーノが歩いてきているのを、丁度見つけることができた。



「また降ってきた」シャーノは外套を外で払って、雪を落とした。「師匠はまだ戻ってないんだね」


「うん。…熱中してたみたいだったから、先に帰っちゃった。ヤエ師匠に、ニーエさんから手紙も預かったし」


「いいよ。ルシェが一人でも平気なら」シャーノはそう言って、微笑む。「でも、次からは、できるだけついていくよ。さっき、怪しい行商人を見かけたから」


「行商人?」


「うん。ずっと同じ場所で、荷車を停めて村を観察してたみたい。ペトラさんの家と、村の間くらいのところだったかな」


「私が帰る時も、ウロウロしてる人、見かけたよ。二人で来てるのかな?何か探してるみたいだったけど…」


「ふうん。まあ、また襲われるとも限らないけど、一人で居るよりは二人のほうが良いし」


「うん、そうだね」


 二人並んで炉火に当たり、一息つく。ルシェがもう一度小窓を見た時、シャーノが言うように、確かに丸々とした雪が降っているのを、見ることができた。

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