膝の上で丸まって…
膝の上で丸まっていた猫がふと起き上がった時、部屋にはニーエしか居なかった。丁度、手伝いを済ませたシャーノが戻ってきて、部屋をぐるりと見渡した。
「ルシェちゃんなら、先に魔女の家に戻ったわ」
「あれ、そうなんですか」シャーノは少し驚いた。
「なんじゃ、一言声をかけてくれればよかったのう」
「二人とも随分熱心になっていたから、そっと見守るだけにしたわ。戸を開けても気付かないんだもの」ふふ、とニーエは笑った。「そのフイゴを直していたの?」
「ああ、シャーノにあげようと思ったんじゃが、壊れておってなぁ。魔女の弟子だけあって、器用で助かった」
「あの、何か理由があって帰ったんですか?」シャーノは尋ねた。
「そうそう。今日持ってきてもらった包で、手紙を幾つか受け取ったのだけれど…その中に間違ってヤエちゃん宛の分が混じってたわ。ロナイ城の封蝋がしてあったから、先に戻って渡してきたほうが良いでしょう?」
シャーノは首を傾げた。今日は郵便受けに何も入ってなかったが、ヤエが先に受け取っていたようだ。猫がニーエの膝から降りて前足、後ろ足の順に伸びをした。
「それじゃあ、僕も戻りますね」
「そうね、早く戻ったほうが良いかしら」ニーエは立ち上がって、手持ちの楼台を手に取った。「はい。雪の夕方は思っているより暗いから、持って行ってね」
ありがとうございます、とシャーノはそれを受け取った。ぼんやりとした雪の空の下で蝋燭に火を灯し、村長夫婦に見送られながら、シャーノはその場を後にした。
ルシェがそれを見つけた時、互いに驚いた。ルシェは相手が驚いたことに違和感を持ったし、相手もそれは同じようだった。
「旅の方ですか?」ルシェは平静を装って尋ねた。
「ああ、ちょっとね」男は軽く両手を広げて、言った。「変なものを集めてる雑貨屋があるって聞いてね。噂みたいなもんだから、本当かはわからないんだが」
「雑貨屋さんなら、角を曲がって、4つ目のお家ですよ」ニコリとルシェは微笑んだ。「でも、普通の雑貨屋さんだから、違うかもしれないですね」
「そうか。まぁ、噂は噂だしな。ありがとう、嬢ちゃん」
男がひらひらと手を振り、ルシェは軽く会釈をした。彼は角を曲がって、そのまま雑貨屋まで行ったようだ。
ルシェの鼓動は耳の奥まで鳴っていた。こちらを見て驚いたということは、ルシェがどこの誰かを知っているということだ。
ルシェはまた雪道に穴を開けながら、帰り道を急いだ。シャーノと一緒に帰らなかったことを少し後悔しながら、たまに振り返ってみる。ひとまず付けられていることは無いようだった。




