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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
5章:雪道に陰る暗がりの杖
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「気難しい人が…

「気難しい人がお師匠さんね」と、ニーエは微笑んだ。「誰に似たのかしら。…調合はちゃんと教えてもらってる?」


「はい、全然厳しくないですし、最近は調べ物も自由にさせてくれますし…」ルシェは答えて、少し俯いた。


「信用してないから教えてくれない、というわけじゃないだろうさ」村長が広間に顔を出して、言った。「あぁ、シャーノくん、ちょっと手伝ってくれるかな?」


「はい、何ですか?」シャーノは立ち上がって、村長について行った。



 彼らを見送って、ニーエはルシェを見据えた。「ヤエちゃんの弟子になる時に、何か約束をした?」


「約束…はい、しました。衣食住と調合を教えるから、私の手伝いをしなさいって、言ってましたね」


「あら、じゃあ、名前もまだ貰ってないのねぇ」


「名前、ですか?」ルシェは首を傾げた。


「そ、名前。ああ、でも、私とマリちゃんの代ではそうしてただけで、ヤエちゃんまでそうするのかはわからないけれど…。魔女の弟子は家族と同じように、魔女の家名を名乗る事ができる。それと、魔女は直系の家族にしか家名をまで名乗らない」


「そんな決まり事があったんですか?」


「ふふ…最初は決まり事じゃなかったわ。一代目がそうしてたのを私が真似たら、マリちゃんもそうしたの。ヤエちゃんがそうする必要もないし…。一代目は弟子が二人。私は一人。マリちゃんは六人だったかしらねぇ」


「どうして、名前をあげるんですか?」


「本当は、弟子のためにって言うわけじゃなくて…私が、ふふ、懐かしいわぁ。一緒になってくれと、言い寄られた時があってね。私の元旦那様に」


 クスクスと笑って、ニーエは微笑む。少し頬が赤らんでいた。


「私は辺境の村娘で、彼は遠い国の騎士様だったわ。一代目も反対して出て行っちゃうし…大変だったのよ。それで私が、魔女の掟で名を教えられないって言ったら、もっと熱を上げちゃったらしくてねぇ。うふふ」


 年頃のルシェも興味があるようで、頷いている。


「デイ・ノートは辺境の村だから、何度か野党に襲われることがあったわ。村を襲う計画をしてる連中とばったり会っちゃったらしくて、大怪我をして帰ってきたのよ…私が看病してたら、情が移っちゃってね?強い人だったわ。村の男三人で取っ組み合いの大げんかをしても、勝ってしまうのよ?それに、顔は殴らないって言ってね…優しい人」


 遠くを見つめ、ニーエはぼんやりとつぶやく。ルシェはそれを見て、どうして別れてしまったのかと思った。聞きにくいことを察してか、ニーエは寂しそうに微笑んで、言った。


「大嵐の日に倒木を処分していたら、腕の太さくらいの枝が頭に当たって、亡くなったわ。呆気無かった…本当に」そっと目を閉じて、ニーエは微笑む。「強さも優しさも、命の燈火には関係ないものね」



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