「あれ?」…
「あれ?」
いつまでも降りてこないヤエを気遣って、シャーノは部屋を尋ねた。しかし、ベッドに寝た形跡はあったが、真ん中に3匹ほど陣取った猫たちが丸まっているだけだった。
「師匠知らない?」試しに聞いてみるが、返事はうにゃうにゃとしか返してこない。「見つけたら教えてね」
隣からゴトッと音がして、寝相の悪いルシェがベッドから落ちたのがわかった。雪道を飛ばして来たせいで、馬もルシェも―おそらくヤエも―ぐっすり眠っているようだ。
シャーノが廊下へ出ると、頭を撫でながら部屋からルシェが出てきた。「おつかい…」とつぶやきながら、シャーノを素通りして広間へ降りてゆく。一緒の部屋から猫たちが何匹か出てきて、それに続いて行列になった。
結局ヤエは見当たらず、二人がでかけたのは昼前になってからだった。
「わかりやすい場所においてあって、良かった」
調合室の机の上に、メモ書きと小包が置いてあった。夕方までに届ければ良いという変更と、できれば早めに帰ること、ヤエはペトラと村外れへ行っていることが書かれていた。
「何もこんな日に出かけなくてもいいのにね」のんびりとルシェは言った。
雪は日増しに振り続けていた。見渡す限りを真っ白に塗りつぶされ、経験のあるルシェも少し迷いそうになるほどだ。なんとか林道を抜け、シャーノが坂道を転がり落ちた以外で言えば、ついて来れない猫を一匹、ルシェが服の中に入れているくらいだ。
「大丈夫、はあ、びっくりした」フードに入った雪を払い出しながら、シャーノは目を丸くした。
「綺麗に滑ったね」おつかいの小包を拾いながら、ルシェも目を丸くする。
「根っこを踏んだみたい。ふかふかでよかった」
「私はコケられないなぁ」服の中の猫を見ながら、ルシェは微笑んだ。
「ずるいなぁ、暖かそう」
「暖かいよ!これからも、入れていこうかな。はい、今度は落とさないでね」
シャーノはそれを受け取った。小包は軽く、何が入っているのかさっぱりわからない。少なくとも、落として壊れるような物ではなさそうだった。
「ホント、何が入ってるんだろう」
「村長さんのお薬じゃなさそうね」
「あんまり教えてくれないしなぁ、師匠」
「なんとなく聞きづらいよね」
「あ、そうだ。村長さんに聞いてみよう」
「村長さん?なんで?」
「師匠のことじゃないんだけどね。この前、村長の奥さんが、変なこと言ってたから」
「へんなこと?」
「猫たちにね。聞き間違いかもしれないんだけど、主が違うでしょって」
ルシェは首を傾げて、釣られてシャーノも首を傾げた。「僕もよくわからないんだ」




