体質的に早起きな…
体質的に早起きなシャーノが弟子入りしてから、魔女の家の朝は文字通り朝日が登ると同時になった。それにつられてルシェも目をこすりながら、もそもそと起きてくる。
シャーノはかまどと暖炉に火を起こし、水を汲みに井戸へ向かった。一方ルシェは虚ろな目のまま香草を摘み朝ごはんの準備を始める。こうしてそれぞれが苦手な部分は補い、面倒事は押し付け合いながら結局二人でこなす。彼が弟子入りして一年半、ルシェはもうすぐ二年目になる。
弟子入りとは言うが、シャーノとルシェは文字通り買われた身分だ。魔女の影響力は領主にまで及び、孤児院に多額の寄付をさせているという。詳しいことは聞いていないが結果として、ルシェの半年後にシャーノも貰われた。
村外れの森のなかにある魔女の家は、じっとりと這うような寒さに包まれていた。今日は雲一つない晴天で、夜の内に熱が逃げ切っていた。
玄関脇に干してあった大きな桶を取って、シャーノは井戸へと歩く。早起きな猫達が何匹か付いてきて、足元や井戸の縁に陣取った。井戸に釣瓶を落とし、ロープを手繰る。
「贅沢な生活だね」と、井戸の縁にいる猫を、シャーノは撫でた。
井戸水をたっぷり汲んだ桶を両手で抱えて、シャーノは台所へ戻った。桶を洗い場の隣へ置き、まだふらふらしているルシェに洗った野菜を手渡す。洗い場には実験用のガラス管や容器が干してあり、水滴は東側にある横長の窓から光を受けてきらめいていた。
ゆっくり階段を降りる音。続いて、小刻みにたくさんの足音が聞こえた。
ルシェは濡れタオルを、シャーノは温めのお茶を入れ始めた。
たくさんの猫達が毛並みをフサフサさせながら降りてきた。ここ最近肌寒くなってきたこともあって、暖を取りに集まって寝ている。朝一番で暖炉に火を付けてあったので、彼らは円弧を描いて並んでいく。毛色も大きさも年齢もバラバラだが、その団結力は抜群だ。
真っ白な長髪を束ねながら、師匠は階段を降りてきた。猫達を跨いで円弧の中心へと入っていった。髪を束ね終わり、両手を暖炉へ向けて突き出している。初めて見る人にはきっと、何かの儀式に見えるだろう。ルシェもその儀式に参加した。シャーノも後に続く。
「おはようございます、ヤエ師匠。今日は一段と冷えますね」ルシェが濡れタオルを差し出して言った。
「おはようルシェ。猫達が退いてくれない」それを受け取って、魔女ヤエは苦笑した。「毛布を減らさなきゃね」
「おはようございます師匠。手紙が届いていましたよ」シャーノはお茶の入ったカップと手紙を差し出した。
「おはようシャーノ。それ、開けてもらえる?」ヤエはカップだけを受け取る。
きめ細やかな、上等な紙が使われている。デイ・ノート村の属している領の、領主と関わる者が使えるオレンジの封蝋が乗っていた。綺麗に刻印されてあり、開けるときに割れてしまうのが躊躇われるのか、シャーノはいつも丁寧に開封していた。早起きなシャーノは、郵便受けの確認も日課になりつつある。
中身を取り出して、濡れタオルと手紙を交換した。そのまま手紙を読むようなので、ルシェもシャーノもそれぞれの持ち場へ戻った。