猫たちは跳ねるように…
猫たちは跳ねるように雪上を進んでいく。時折深いところに嵌っては、鼻先に雪をたっぷり載せて顔を出していた。しばらくの間、シャーノとルシェはそれらを眺めていた。師匠を迎えに行く時に、一緒に付いて行った猫も戻ってきたが、当のヤエは戻ってこなかった。
結局、ヤエが帰ってきたのは夜更け頃だった。二人が少ない荷物をあちこちへ仕舞っていると、そこかしこで寝ていた猫たちがムクリと起き上がった。来客の時は耳を立てるだけなのだが、起き上がるときは大抵猫たちと親しい人ばかりだ。
「ルシェ」帰ってきてルシェを見るなり、ヤエは言った。「明日、起きたらすぐに、村長さんのところに届け物をしてくれる?」
「おかえりなさい。わかりました…あ、馬に載せたままでした?」
「そう。帰りに渡すのを、忘れていたわ。ペトラ爺が妙なものを捕まえてくるから…」
ヤエはそのまま首を傾げて、首元に垂れている髪をくるくると指で回した。ルシェがお茶を準備しようとすると、猫たちと一緒にシャーノも広間に入ってきた。
「師匠、おかえりなさい。ペトラさんに言われて、調合室の天窓を塞いだんですけど」
「あら、気が効くのね。屋根の傾きがしっかりしてるから雪は落ちるのだけれど、重さで割れちゃうから…雪が降り止んだら、また開けておいてくれる?」
「わかりました」
「ちょっと考え事があるから。あ、お茶は貰うわね。…ありがとう」
そう言って、ヤエは廊下へと消えた。
ルシェは伸びをしながら、円弧に並ぶ猫たちの中へ入って暖炉に手をかざす。シャーノは左手で頬杖を突きながら、右手でテーブルに転がる猫と遊んでいる。お腹を撫でると、両手で掴みながら足で蹴ってくるのだ。
「シャーノ、修行はどうだった?」ルシェは振り返って、聞いた。「石を投げてるようにしか見えなかったけど」
「うーん、何だろう。…まだよくわからないなぁ。薪割りとかもしたけど、人を投げ飛ばせるくらいにはなってないよ。…ルシェは?急いで帰ってきたみたいだけど、何かあった?」
「あんまり師匠と一緒に居られなかったけど、城下町を出歩いたり、マリ姐さんとたくさん調合したり…そうそう、宿屋の、カッコいい店員さん、マリ姉さんの弟子なんだって。青いバンダナの」
「あれ、そうなんだ。ずっと黙っている人だったから、ちょっと怖くない?」
「私も怖かったけど、普通に喋るよ。ワザと黙っているみたい」
「へえ。…やっぱりマリ姐さんに似てるのかな」
「うん、そっくりだった」




