夕暮れも過ぎて…
夕暮れも過ぎて、ちらついていた雪が毛玉のように丸くなって降って来た頃。玄関扉からのノックの音と一緒に、村長婦人が顔を出した。暖炉前に集まっていた猫が、一斉に玄関に集まっていく。
「ヤエちゃん、まだ帰ってないのね。積もってきたから、そろそろ戻ってくると思うのだけれど」
「こんにちは。わ、外套に積もってるじゃないですか。寒かったでしょう。お茶を入れますね」
「あらあら。ご丁寧にありがとう」
「珍しいですね。…あ、村長の痛み止めなら、一昨日取りに来ましたけど」
「お薬なら、ちゃんと確認してありますよ。ヤエちゃんに用事があったのだけれども…それに、珍しい、ということもないかしらね」上品に笑いながら、婦人は猫たちを順番に撫でていく。一通り撫で終わって、婦人は暖炉前の揺り椅子に座った。
「ペトラさんの弟子修行は楽しい?」
「はい、楽しいですよ。詳しく説明してくれないですけど…。どうぞ、お茶です」
「ありがとう。いただきます」
シャーノは手持ち無沙汰になってしまった。普段からルシェと家事を分担しているせいか、いつもどおりに過ごして、あとは寝るだけだったのだ。
「お茶の淹れ方まで教えているのかしら。ふふ…味がヤエちゃんと一緒ね」
「そうですか?そう言われると、ちょっと嬉しいです。…えっと、言伝でしたら、伝えておきますけど」
「いえ、内緒話だから…そうね、ヤエちゃんが帰ってきたら、教えてくれるかしら」
「はい、わかりました」
「優秀な弟子ね。…はい、ごちそうさまでした」シャーノはカップを受け取って、洗い場へと向かった。
「それじゃ、急に来てごめんなさい」
「いえいえ、また来てください」
婦人の足元に、ワラワラと猫たちが集まってきた。「こらこら、今は主が違うでしょう」と、玄関口で猫たちを撫でる。
「じゃ、おじゃましました」
丁寧にお辞儀をして、婦人は出て行った。
婦人が帰ってからしばらく炉火にあたっていると、婦人と一緒に出て行った何匹かが裏口から戻ってきて、暖炉の前で毛づくろいを始めた。それをぼんやり眺めている内、一通り綺麗に舐め終わると、一匹が膝の上に乗って丸まった。
「…今は」
そうしてシャーノは、婦人が帰り際につぶやいた言葉の意味を、ぼんやりと考えて過ごした。




