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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
4章:葉脈の集う場所たち
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目を細めながら…

 目を細めながら口角を上げるエピネルを背にして、口ひげの衛兵はそそくさと宿屋を後にし、ルシェはそれを追いかけた。


 エピネルが踵を返して戻ると、ちょうど受付のカウンタ・テーブルで、さっきの男と鉢合わせた。


「わ、びっくりした。お会計?」


 と、エピネルが尋ねると、男はちょっと吹き出して、謝った。


「いや、前の会計も宿に泊まった時も、黙りだったから」


「沈黙は花なのよ」


「金じゃなくて?」


「それもあるわ」


 硬貨を渡して、男は出て行こうとした。


「多いんだけど」


「また来る」


 そう言って、男はまっすぐ大通りへと向かった。


「…見失ったかな?」



「格好いいヒトだった?」ヤエは小瓶を受け取りながら、聞いた。


「お茶目なヒトでした」ルシェは笑いながら、答える。


 ルシェが戻ってくると、マリの部屋は綺麗に整えられていた。ヤエが暖炉の近くで本を読み、口ひげの衛兵はマリに呼ばれて隣の倉庫へ入っていった。


「エピネルさんは、ちょっと苦手なのよね。…こらこら、あなたのじゃないから」小瓶の匂いを嗅ぐ長老猫を抱きかかえて、ヤエは頭を撫でた。


「苦手なんですか?」


「マリ姐さんに似てる」への字に口を曲げながら、ヤエは言った。


「ああ…」ルシェは頷いて同意する。どうにも、反りが合わない人同士というのがあるらしい。


「そうだ、師匠。宿屋の酒場で、魔女の家に来た人と、私達がロナイに来るときに合った人、居ましたよ」


「あら」ヤエはパチパチと瞬きをした。「護衛で男爵に付いて行ってもらったけど、屋内でならあまり役に立たなかったかな。問題事は起きなかったのね」


「家に来た人はずっと突っ伏して寝ていました。もう一人は、私が酒場の倉庫にいる時に、外へ出て行ったので。あと、もう一人、知らない人が居ましたよ。多分、私達を襲わせてる人だと思います」


「あの時、念のため隠れていてよかった」片手で猫を撫で回しながら、ヤエは首を傾げた。「ということは、エピネルさんからそのうち連絡がくるかしら」


「マリさんの弟子でロナイに居る人って、エピネルさんなんですね」


「マリ姐さん、ね」マリは後ろからルシェを抱きかかえて、ズルズルと椅子まで引きずって膝に載せた。「あちこち不穏ね、ヤエ」


「倉庫整理は終わったの」


「ええ。男爵ちゃんが殆どやってくれてるわ」


「私達、明日にはもう出発するから」


「急ね」


「用事は済んだし、そろそろシャーノが寂しがる」


「あなたが寂しがってるんじゃないの?」


「はいはい」


 ヤエは長老猫を床に降ろして、椅子から立ち上がった。「もうすぐ積もるわ、雪」

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