作業自体は単純だが、…
作業自体は単純だが、とにかく量が多かった。ひと摑みでは足りなかったので箱ごと持ってきたが、すっかり使い切ってしまった。ちょうどそれらがなくなる頃、荷鞍に積んであった材料が運び込まれて、ヤエも一緒に戻ってきた。
「ひどい有様ね」ちょっと疲れた顔で、ヤエは言った。「大瓶で150個くらい。そうそう、偽物を売りつけてる人が、擦り傷まみれになっていたわ」
「バレちゃったのね」マリは肩を竦めた。
「悪いことはするものじゃない」ヤエはルシェの混ぜている石臼に幾つか実を入れ、ルシェの口元に別の実を持ってきた。
「それが終わったら休憩してね。私と交代」ヤエは人差し指で実を押し付け、ルシェは仕方なく食べた。気付けに使う実なのだが、直に食べるととても苦い。「はいー」と、間の抜けた返事になった。
しばらく黙々と作業が続いた。短い指示だけが交差して、大瓶へと薬が入れられていった。置き場所に困ってとうとう廊下にまで及び、追加の薪を運んできた口ひげの衛兵が、そのまま廊下で番をすることになった。
ルシェは大瓶と小包をそれぞれ手に持って、廊下へ出た。蜜蝋の灯に照らされた口ひげの衛兵が立っていて、奥の廊下への道をしっかりと塞いでいた。彼の後ろにはズラリと並んだ大瓶が、小さな小窓から差し込む明かりで照らされている。
ルシェは大瓶を手渡した。これも並んだ大瓶の数だけ繰り返したのだが、衛兵は小包も渡された。
「これは?」
「気付けです。今渡した瓶で、半分なので、まだかかるみたいです」
「なるほど。しっかり見張ってるから、大丈夫だと伝えてくれ…なあ、嬢ちゃん」
「はい?」踵を返して部屋に戻ろうとしていたルシェは、呼び止められて振り向いた。
「どうやって魔女の弟子になったんだ?」小包から甘菓子を取り出して、衛兵は口に放り込む。
「どうやってって…」ルシェは首を傾げた。
「何だ、自分から弟子入りしたわけじゃないのか。三代目のマリ姐さんは、志願者で向いてるやつをホイホイ弟子にしてたもんでな」
「そうみたいですね」
「いやな、あの堅物の四代目に、どうやって取り入ったのかを知りたくてね。うちの衛兵共は今のところ百選連敗だから、なんとか弱点を知りたいところなんだがね」
「うーん…私もまだ1年半しかいないので…ごめんなさい。私は孤児院から引き取られたので、師匠とマリさんとではやり方が違うのかもしれないです」
「へえ。そうか。そりゃあ、無作法な聞き方をしちまったな。すまん」
「いえ、気にしないでください」
「ちょっと」キイ、と扉が開いて、ヤエが顔を出した。下を見ると、長老猫も顔を覗かせている。「私のかわいい弟子を口説かないでくれる?」
「俺じゃダメだそうですよ」衛兵は肩をすくめて、口髭がへの字になった。「それに、もっと豊満な方が…うわっと」大瓶を放られて、衛兵はそれを受け取った。そのまま扉は閉じられ、ヤエも長老猫も引っ込んでしまった。
衛兵と扉を交互に見て、ルシェは言った。「仲がいいんですね?」
「とんでもない」衛兵は背筋を伸ばした。「四代目様は昔から、強い男が良いとの事です…うおっとと」
言い終る前に、少しだけ開いた扉から、また大瓶が飛んできた。今度は2つだった。




