とうとう雪が…
とうとう雪がチラついてきた。「まだ大雪にはならないかな」とヤエは呟き、ルシェは二人分の毛布を荷物から引っ張りだした。どんどん肌寒くなる丘をいくつも超え、交代しながらほとんど休みなく手綱を握った。
そうして2日目の星明かりの下で、ノート・ロナイ城下町で焚かれる灯火をはっきりと見ることができた。
関所の前に立った衛兵の止まれ!という一言に、ヤエはちゃんと従って、馬の歩を止めた。「夜更けに通すことはできない。朝になるまで、そっちの野営地で待ってもらいたい」
よく通る声で衛兵は言ったが、その際中にスルリと馬から降りて、ヤエはどんどん近づいていった。あまりにも堂々と近づいてくるので、衛兵は最初戸惑った。「おい、今は通せない」何歩か後ずさりして、左腰に下げた剣に手をかけた。「女だからといって、捕まえない理由も無いぞ」
「許可証ならあります」ヤエは全く怯まず、サラリと言った。そのまま歩きながら懐から金属の板を取り出し、それを衛兵に手渡した。
衛兵が首をかしげてそれを眺めると、突然剣が鞘から抜かれた。彼は驚いてヤエを見たが、そこには居なかった。後ろを振り返ると、弧を描いて関所の扉に剣が突き刺さるのが見えた。
「構えがしっかりしているけれど、油断しすぎね」ヤエは肩をすくめた。
「ああ…デイ・ノートの魔女であられましたか!」いつでも飛びかかれるようにと、腰を落としていたが、彼はそれをやめて敬礼をした。「自分が番をしている時に来られるとは、夢にも思いませんでした」
「略奪も襲撃も同じね」ヤエはニコリと笑った。「気づいてくれるのは嬉しいけれど、もしかして、突然衛兵を襲う変な女とか言われてないかしら」
「い、いえ、とんでもない!そんなことは!決して!」
「あらそう。ちゃんと言い聞かせておかないと」毛先をくるくると回して、ヤエは言った。「積み荷を、関所の窓部屋に並べてほしいのだけれど…明日の朝までにお願いしていいかしら」
「はい、承りました。何か気を付けたほうがいいことはありますか?」
「そうね…小瓶に8と書かれた物があるから、それを1つ持っていって、2日程休みを取りなさい」
「え、休暇ですか?」衛兵は首を傾げた。
「そう、休暇です」ヤエは頷いた。「痛みを隠すのは結構だけれども、いざという時に困ります。後ずさりの仕草にもたつきがある。後ろを振り向かずに振り返った。素手での構えは上出来だけれど、明らかに右足を庇っているわね?右が利き手なのに左足で踏み込むために右を前にして構えた。不審な輩を捕らえるという心意気は十分に感じられました。…休暇の手続きは私がとっておきます。8番の小瓶は打ち身に効く塗り薬だから、捻挫にも効きます」
説明しながら、ヤエは馬の方へと戻って、蔵にまたがった。「その代わり、扉の修理費は、あなたの授業料、ということで」
もう一度衛兵は後ろを振り返ると、扉に突き刺さった剣と、野次馬の衛兵が数人が関所から出てくるのを見つけた。




