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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
3章:石ころたちの春
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「なら、薪割りだな」…

「なら、薪割りだな」


 ゴトン、と、小さな手斧―それはペトラが持つと、とても小さく見える―を杖にして、ペトラはニヤリと笑った。


 大鍋で作った美味しい夕食を済ませ、何か手伝えることはないかとシャーノが尋ねた。ペトラは黙って倉庫へ向かうと、長い柄と手斧を持って戻ってきたのだ。


「魔女の家でもやっていただろう?ただし、今回は」ゴン、と柄を床に当てて、斧の刃が外れた。「柄を長くしてやってもらう。随分勝手が違うから、戸惑うかもしれんがな」


 長い柄に刃を入れて、ペトラはシャーノにそれを渡した。シャーノの身長と同じくらいの長さがある。刃は丁寧に砥がれていて、刃こぼれひとつなかった。



「刃のほうを持たないと重いだろうが、何も振り回せと言うわけではない。あまり石ころばかりでは面白みもないからな。どれ、こいつに当ててみろ」

 

 ペトラは玄関脇に置いてあった丸太と置き木を持ち出し、暖炉前の石畳に積んだ。シャーノは、以前ヤエに教えてもらったやり方と同じで、刃の根元を右手で放り上げて、刃が落ちるのと同じようにしゃがんだ。ゴン、と地鳴りがして、刃は丸太を掠めて置き木に刺さった。


「あれこれ言うつもりはない。ワシの愛弟子が、ちゃんと教えておるようだしな。そうだな、あの脇に置いてあるのを4つ、細かくしてくれ」


「4つだけでいいんですか?」


「ハ、ハ!欲張るじゃないか。手伝いは嬉しいが、薪を割るのが主ではないからな」ペトラはシャーノをワシワシと撫でた。「よろしく頼むよ。ワシは少し、やることがあるからな。終わったら、奥の部屋まで呼びに来てくれ」


「はい!」


「怪我をするなよ?」ペトラはニヤリと笑った。「愛弟子に叱られるのはみっともないからな」


 ペトラの笑い方はほとんど一緒だが、シャーノは最近になって、やっと違いがわかってくるようになってきた。今のはきっと、まあ大丈夫だろう、といったものだろう。



 珍しく穏やかな陽気と、揺り籠のような馬の背に、漂う香草の香り。おまけにフカフカの猫が居るとなれば、ルシェはぐっすり居眠りしてしまった。いつもはヤエが野営の火の番をしているが、ルシェが担当することになった。経験しておくのも大事だから、と、ヤエは優しく言ってくれた。


 長々と続く丘の一角に、チラホラと岩場がむき出しになっていた。誰かが野営をしていた後があって、ある程度小奇麗になっていたので、そこで夜を明かすことにした。



 二人は座り込む大きな馬の背を借りた。ヤエはルシェの隣で、毛布に丸まっている。長老猫を膝に抱いて、ルシェは焚き火に枝葉を足した。少し湿気ったそれは燻って、やがて赤々と燃え出した。


 ぼんやりと焚き火を横目に見ていると、ふと馬がそっぽを向いた。耳をピンと立てて、小道に向けている。ロナイ城の方角だった。


「火に入るなんとやら」ヤエがムクリと起き上がった。瞬きを数回したが、スッキリはしないらしい。長老猫が立ち上がって、ヤエの毛布へと移動した。


「悪い人たちじゃないといいですね」ルシェは立ち上がって、山積みの荷物から小瓶を取り出した。


「多分、大丈夫かな。…袖口に隠し持っておいて」


 ルシェはコクリと頷いた。使わずに済むなら、その方がいいとルシェは思った。何せその小瓶は、ちょっとした魔法の道具なのだから。

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