木陰がさっぱり小さく…
木陰がさっぱり小さくなる頃には、魔女の家を離れ、ペトラの家の前に着いていた。荷物の上にルシェと猫を乗せて出発するのを、シャーノとペトラは見送った。透けるような青空はずっと続いていたので、もうすぐ雪が積もるという実感が、シャーノにはいまいち沸かなかった。
「馬が上等なものだ」ペトラは呟くように言った。「まるで予想していたような気がしてならんな?」
「ロナイ城の、三代目さんへの襲撃ですか?」
「そうだ。まあ、いつもああして、人の先々を行くから、あまり気にしてはいないがな」そう言って、ペトラは肩をすくめた。「聡いというのも考えものだな。もう少し愚かな方が、きっと生きるのも楽だろう。…いや、その弟子にする話ではないな。さあ、続きだ。今日からはこの重しを持ってだな…」
ペトラはくるりと、小道を行く魔女と小さな弟子に背を向けて、シャーノに話しかけた。シャーノは、ペトラの後ろでゆっくりと小さくなっていくそれを横目に、修行を始めた。
「今からなら帰れるよ?」
積荷の上で後ろを振り向いていた猫に、ルシェはそう聞いた。もちろん猫は何とも返事もせず、ルシェの方を向いて、ゆっくりと瞬きをしただけだった。ルシェと猫は、荷鞍に積まれた荷物の上で、少し埋もれるようにして座っていた。
「珍しく長老が付いてくるなんてね」ヤエは手綱を握って、のんびりと言った。「その子は耳が良いから、街中には行きたがらないんだけど」
「普段じっとしていますよね」ルシェは長老猫を撫でた。「荷物に飛び乗った時はびっくりしました」
長老猫は目を閉じて、おとなしく足を折って丸くなった。ヤエが普段撫でるようにしてみたのだが、それほど喜んでもくれなかったようだ。その後もあれこれ手を出してみたのだが、とうとうルシェは諦めて、振り向くのをやめた。
「荷物が少し多いけれど、いい天気がしばらく続きそうだから、早く着くわね。帰りの雪だけ気をつけないと」
「そういえば去年は、二人で屋根から滑り落ちましたもんね」ルシェは苦笑いをした。屋根に積もった雪を下ろしていたのだが、ルシェが足を踏み外して、ヤエに助けてもらったのだ。
「そうね。意地っ張りも、その時に無くなったわね」ヤエは少し振り向いて、ニコリと笑った。ルシェは照れ笑いをするしかなかった。「…確か、靴の上から付けられる、針の金具が売ってたかな。せっかくだから、帰りに買っていきましょう」
ルシェは、はい、と頷いた。そうして、馬の揺れに合わせて、猫もルシェもユラユラ揺れていた。




