一通りそこらじゅうの…
一通りそこらじゅうの石ころを使ったやり取りをした。それは最初の説明からずっと無言ではあったが、シャーノはペトラの言った事がなんとなくわかってきていた。しかし、受け取る石ころがざっと3周目になった頃に、いつまで続くのかわからないこのやり方に、少しウズウズしてきていた。
それを察したのか、ペトラは石ころを投げるのを止めて、休憩しよう、と一言告げた。裏庭のそこかしこにある切り株のうち、すぐそばにあったそれにペトラは座り込み、シャーノはペトラの正面の、ほどよい距離にあるそれに座った。
「運動は得意そうだな。良いことだ」ペトラはニヤリと微笑んだ。「今の限界は近そうだが、伸び代がある」
まだ疲れていないと言おうとして、シャーノは自分が肩で息をしていることに気づいた。デイノートの村には同じ年齢くらいの子供が居るが、ヤエの所に来て以来、駆けっこや、兵士ごっこといったこともしなくなっていた。
魔女の弟子という影響か、色々と質問されることはあっても、シャーノ自身のことにはあまり触れてこない。よその土地の人という印象もあるのだろう。
「そう急ぐこともない。…ふん、愛弟子が様子を見に来たぞ」
生い茂る木々とペトラの家の間から、ヤエとルシェが現れた。ルシェは検診用の鞄を背負っている。村を一周りしてきた後のようだ。「順調そうね」ヤエは言って、ペトラに小さな包みを放り投げた。ペトラはそれを受け取って、「飲み込みが早い。お前さんより上手かもしれんなぁ、ハ、ハ!」と豪快に笑った。
「ふうん、師匠として鼻が高いわね」ヤエはニコリとシャーノに笑いかける。板挟みにされて、シャーノは少し戸惑った。ルシェがそれらを交互に見て、ニコニコしている。
「検診だけど、後のほうが良いかしら。そろそろルシェにも見てもらわらないといけないし」ヤエはペトラに聞いた。
「ああ、今からでいい。シャーノもついでに見ると良い。…今のところ、後釜は嬢ちゃんなんだな」
「そういうつもりはないけれど」ヤエは首を傾げて、毛先を指でくるくると回した。「経験は大事でしょう?」
「ハ、ハ!そうだ、シャーノ。経験は大事だ」ペトラは嬉しそうに言った。「ワシはまっとうに生きとらんから、人間らしさなんかは教えられん。教えられる事といえば、知っていることだけだな。ほれ、診てくれていいぞ」
そう言って、ペトラは上着を脱ぎ、ブカブカの肌着の右袖を捲って肩を見せた。
ペトラは浅黒い肌ではあるが、露出した右肩は赤茶けてひび割れていた。その症状は二の腕まであって、一番酷いところはすこしグズついていた。シャーノもルシェも、村中の検診に一緒に出向くことはあるが、大きな傷の時はヤエだけが診ていたので、これが初めてだった。
「見た目はひどいが、痛みがないのが幸いだな」ぐるぐると肩を回して、ペトラは言った。
「シャーノ、お家の暖炉際に、沸かしたお湯があるから、持ってきて。ルシェは鞄から、軟膏と包帯を出して」
シャーノは頷いて立ち上がり、家へと向かった。ルシェは目を丸くしていたが、ヤエに言われて、いそいそとそれらを取り出した。




