穏やかな夕食である。…
穏やかな夕食である。先ほどの緊張感は―緊張していたのは彼だけだったようだが―全くなかったことのようになっている。魔女は弟子二人を両隣に座らせて、彼と向き合って座った。
弟子二人がてきぱきと準備した料理たちを前に、彼は自分の置かれた状況と疑問をまとめていた。机は先ほど雑多なもの全てを退けられ、赤々と照らすテーブルランプとたくさんの料理が乗っている。料理は全て大皿に乗っていて美味しそうであるが、果たして食べていいのだろうか。弟子二人は大皿から綺麗に取って分けて黙々と食べているので、毒はなさそうだ。
魔女は右手の人差し指を頬杖にして、彼の疲れた顔や角ばった体のあちこちを観察しているようだった。彼は勇気を出して居心地悪そうに最初の一口を頬張ったが、予想しているよりもずっと美味しかったらしく、二口目はすぐに運ばれた。
「胃袋を掴んだところで」突然魔女は切り出した。「あなたの質問に答えましょう」
彼は固唾と一緒に美味しい料理を飲み込んだ。「質問の前に一つ」
「何かしら」
「自分は見かけよりも、薪に適していないでしょうね」
「ええ、残念」魔女は微笑む。「私の見当違いね」
「魔女は陰鬱で不可思議な魔法を使うと聞いていましたが、まさか短剣を取りあげられるとは」彼は肩をすくめる。
「陰鬱、ね…。不可思議なものは皆、魔法よ」
「違いない。いったいどこであんな芸当を習ったのですか?」
「村外れに住む、老獪な兵に教わったわ」微笑んだまま、魔女は彼を見据えた。
「なるほど。自分も、ぜひとも習いたいものです」彼は魔女と目線を合わせた。「私の身分は、スカップから?」
「いいえ、あなたのご友人は身分も告げずに要件だけを済ませようとして失敗し、隣町へ。」
「では、どうやって私のことを?」
「それはね」魔女は両肘を付き、指を組んで立てた。「説明すると、それはとてもつまらないわ。今はきっと、まるで魔法のように見えるでしょうけれど」
「ええ、とても不思議です」
「あなたの名前はツィーロ」魔女は続ける。「ルフォロ・ツィーロ。階級は准将、給与待遇共に良し、特に裕福ではなかったあなたは自らの実力と人望だけでその身分にまで就いた。得物は棒術が最も得意で、ナイフと柔術にも精通している。背負った剣は仕官先の上司からの頂きもので、一度も抜いたことがない。」
「なるほど」彼は背筋を伸ばした。「何もかもを知っているようですね」
「名前は、背負っていた剣に。鎧の紋章が、出身と身分に。顔立ちは過去と現在の差を埋めるわ。身軽な体つきに似合わない大きな鎧は、さぞや窮屈でしょうね」
「ええ、良い待遇です。戦陣に立つことさえ無くなってしまった。まだ血が滾るのですがね」彼はため息をつく。「魔法は無いようだ」
「魔法なんて無いわ。つまらないでしょう?」魔女は自嘲気味に笑い、一息ついた。
「だから、背中のナイフは危なかった。ああいうのは対策が必要ね」魔女は右隣に座っていた少女を抱き寄せた。
頭を撫で回されている少女は、俯きながら嬉しそうにしていた。外套を渡すときに少女が見つけていたらしい。彼は真っ赤になっている少女とは反対に真っ白になって、今後は女子供にも警戒しようと誓った。




