デイ・ノート村への…
デイ・ノート村への帰り道は5日かかった。主だった理由は、優秀な御者がヤエだけだったこと、途中雨に見舞われたこと、野草摘みに励みすぎたことだ。
ただでさえ満載だった荷物は一回り増えたが、魔女の家に運び込んでしまえば、それほどの量にもならない気もした。大木の根本に張り付くように立てられている魔女の家には、付随する倉庫や2階の部屋と、他にも地下室、実験室などなど小部屋や棚がたくさんあった。隠し扉まであったりする。
ヤエが粉物を瓶詰めしている間に、ルシェとシャーノは次々と荷物を運び込んだ。詰め物をしながらヤエがチラリとこちらを見て、ソレは倉庫、ソレは2階の部屋へと指示していく。ある程度は袋の色形で判別するのだろうけれど、一瞬でそれらを見分けているようだ。
仮止めしていた大きな馬を引いて、ルシェは倉庫脇へ連れてきた。移動中の2日はルシェが乗っていたので、馬自身もすっかり懐いている。シャーノが村長さんから飼葉を貰ってきて、ちょうど帰ってきた。植木用の柵を囲って、簡易の餌場にする。
「師匠が、しばらく預かるって。先に手紙が届いたみたい」飼葉をほぐしながら、シャーノが言った。
「わ、じゃあ、どうしよっか」ルシェは馬のタテガミをワシワシしている。
「どうするって、何を?」
「名前。この子…っていうには大きいけれど、フランツさんも言わなかったし、馬としか呼んでないし」
「うーん、名前、ありそうだけれど、どうなんだろう。師匠なら知ってるかな」
「聞いてくるね!」
ルシェ自身もすっかり慣れているようで、手を舐められながら走っていった。シャーノはまだおっかなびっくりである。倉庫の影には猫達が物珍しそうに集まっていた。
「猫達が馬を囲んでいた」夕食の席で、ヤエがぽつりと言った。「きっと、この家のしきたりでも教えているのかもね」
「…いじめてないと、いいですね」ルシェが目をパチパチさせた。
「体格差があるし、猫達はあれ以上近寄れないかな」ヤエは微笑む。「ルシェは、動物に好かれやすいんじゃないかな」
「そうなんですか?」
「うん。鳥も寄ってくるし、あるがままという感じかな。シャーノは観察されてから寄ってくる」
「僕、観察されているんですか?」シャーノは驚いた。
「新参の猫が来た時は、じっと物陰から見られているわね」
食事の時、猫達は主にルシェの周りに集まっている。ヤエは寄らばモフるというスタンスだし、シャーノは乗られれば、と言った形だ。今日は黒ぶち猫がシャーノの膝に乗っている。
「そういえば、名前って、あるんですか?」ルシェは聞いた。昼間、ヤエが忙しそうだったので聞きそびれたらしい。
「馬には無いわ。元々商品として扱おうとしていたみたいだし」
「それじゃ、何かつけてもいいですか?」ルシェは身を乗り出した。
「うーん、いいけれど、長居するかわからないから、もし付けたらフランツさんにも言っておきましょう。…魔女の弟子がつけた名前だから、きっと高く売れるわね」
そう言って、ヤエはニコリと笑った。




