雑貨が満載のカウンタ・テーブル…
雑貨が満載のカウンタ・テーブルの横を通り、暖炉前にある椅子へと彼は招かれた。暖炉には直径1メートルほどの大釜が家主の名に負けないほどの存在感を持ち、放り込まれた薪の火が釜を抱えていた。
「師匠を呼んできます」少女はペコリと頭を下げ、首元で結った長い髪をパタパタ揺らしながら奥の通路へと消えた。やはり、この幼気な少女こそが魔女なのではないかと疑い始めていた彼は、魔女の弟子と言うよりは使用人のような扱いなのではないかと思った。先程も外套を壁にかけてもらったのだ。
揺れる炉火は穏やかで、釜は湯気を立てている。
しばらくして最初に現れたのは魔女ではなく、猫だった。そして次に現れた魔女はやはり彼の想像とは全く違っていた。杖を持った老婆ではないし、複雑に曲がりくねったとんがり帽子を被っているわけでもなく、艶美な肉体で誘惑するような雰囲気でもなかった。真っ黒な薄手のロングカーディガンを羽織った彼女は足音もなく暖炉へと歩き、積んであった新しい薪を掴み放り込んで手をかざした。
魔女は猫と一緒に暖を取っている。
背は高く、長い髪は真っ白で、明るい茶色の瞳に火が映る。
その魔女を前にして、彼の頬に汗が通った。
「こんばんは」彼を横目に見て、魔女は微笑んだ。
「はじめまして」彼はゆっくり椅子から立ち上がる。
「2つの大河と7つの山を超えた所から、何か用かしら?」
「ご存知なのでは?」彼は腰に手を当て胸を張り、至って冷静に返した。
「ええ、来客の名前も、用も、背に隠した短剣ですらも知っています」
彼は一歩で間合いを詰めて、逆手に持った短剣を振り抜いた。
彼はそのまま暖炉を背に魔女の方へと向き直る。
握っていた短剣が無くなっていた。
魔女は目の前に居た。右手が彼の胸に当てられている。
「あなたは、良い燃料になりそうだね」短剣は魔女の左手にあった。刃の方を細い指で摘んでいる。
魔女の目に映る薪火。
その目が細められた。
彼は、魔女が微笑んでいることに気づくまで、少し時間がかかった。
「これを許すのには条件がある」魔女の唇が動いた。
「3つ。私の知っていることを聴くこと。おとなしく私の言うことを聞くこと。この家で暴れないこと」
袈裟懸けになっていた鞘のベルトを、魔女の右手が器用に外した。彼の背にあった剣が床に落ちる。
「私はデイ・ノートの魔女四代目。優秀な騎士のあなたに敬意を。まずはその重い鎧を脱ぎ、椅子に腰掛け、夕食にしましょう?」