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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
1章:鳩をあなたに
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失礼します、と…

 失礼します、とルシェが扉を開けてシャーノがあとに続いたが、受け答えをする間もなくルシェは捕まり揉みくちゃにされていた。シャーノは入り口で呆然と立ち尽くし、ヤエは片手で顔を覆っている。黒ぶち猫はヤエの隣で前足を揃えてお利口に座っていた。


 「きゃあ、ヤエ!あらあら髪は染めたの?せっかく私と同じ白になったのに、なになに身長も縮んじゃって!若返りの薬でも作ったのかしら?ほっぺもぷにぷにでかわいいじゃない!」


 はた、と入り口に立ち尽くすシャーノを見つけた魔女は、抱きしめていたルシェの両肩をしっかり持って膝を付き、真面目な顔で視線を合わせる。


「彼は旦那さん?若い子がいいの?」


 二人は互いに何か言おうとしたが、口がアワアワ動くだけで何も言えない。


「その辺にしてあげてください、マリ姐さん」黒ぶち猫のあとに続いて、ヤエが入ってきた。「二人は私の弟子」


 真面目な顔のまま瞬きを3回ほどして、三代目魔女・マリはようやくルシェを離してヤエに飛びつき、ひらりと避けられそのまま廊下へ吸い込まれていった。



 マリが廊下で足をもつれさせているのを確認すると、ヤエは扉を閉めた。「そこに座って」と、大きな作業机のそばに置かれた椅子を指差す。シャーノとルシェは頷いた。机には香草や石ころ、小ビンといった雑多なものが転がっている。


 椅子に座ると、黒ぶち猫がシャーノの膝に乗った。シャーノは黒ぶち猫を撫でながら、落ち着かない様子でぐるりと部屋を見渡す。質素な部屋というより、使われていないところを活用しています、といった雰囲気だった。扉の反対側に大きな窓があり、なんとか朝日を取り込んでいる。北向きの窓らしい。暖炉があるので、なんとか寒さを凌げるようになっている。魔女の家にある大釜と似たような釜がすっぽり収まっているものの、まるで冷え込んだ空気が固められているようだった。



「久しぶりに顔を見せに来たと思ったら、弟子が居るなんてね」ニコニコしながら、マリが部屋へ戻ってきた。


「わざわざ呼びつけたのは、荷物だけのためじゃないでしょ?」頬杖を付くスペースを確保して、ヤエは尋ねる。


「もちろん」椅子を移動させているルシェを捕まえて、マリは椅子へ座り、膝にルシェを乗せた。ヤエと同じく背の高いマリは、比較的小さいルシェをすっかり両腕で覆っている。ルシェは口を引き結んで、緊張に耐えているようだ。


「それで、要件は?」頬杖を付くのを止めて、ヤエは腕を組んでぶっきらぼうに聞く。


「追って連絡するから、帰っても大丈夫よ」ニコリと笑ってマリは言った。


「どういうこと?」


「ここでは言えないかな」


「私がここに来ることが目的ね」


「半分正解かしら」


「なるほど」


「陣取りが始まってしまった」


 ヤエは何か言おうとしたが、マリの方を向いたまま口を閉じた。


「この子達の国が相手。知ってるわね?それで全部」マリは少し目を細める。


「連絡はどう…鳩ね。わかった」ヤエは頷いて、立ち上がった。


 釣られて立ち上がったシャーノを、マリはチラリと見た。黒ぶち猫がシャーノの足にピッタリと付いている。


「慈悲?」


「まさか」ヤエは微笑む。「私欲です…マリ姐さんもそうでしょ?」


「よろしい。もし慈悲だなんて言うなら、二人ともここに残させるつもりだったから」そう言いながら、マリはルシェの頭を撫でた。ルシェもシャーノも、瞬きしかすることがない。


「それじゃ、もう行きます」ヤエはシャーノを手招きした。


 ルシェはマリの顔を見上げると、マリはルシェを放した。ルシェは小走りでヤエのところへ向かい、横に並んで振り返った。



「二人とも、名前は何かしら?」マリは訪ねた。


 ルシェとシャーノは互いに顔を見合わせて、先にルシェがマリの方を向いた。


「私は、ルシェです」


「僕はシャーノ」


「ルシェに、シャーノね。ほんと、小さいころのヤエに似ているわ」マリはニコリと微笑んだ。「私は魔女三代目、マリです。マリ姐さんと呼ぶこと。いい?」


 二人が頷くのを確認して、マリはヤエを見た。


「気をつけてね」


「ええ、マリ姐さんも、無理はしないように」


「大丈夫よ。まだ若いから」


「若い人はそんなこと言いません」そう言いながら、ヤエは扉へ向かう。


「言うようになったわね…誰に似たかしら」マリは人差し指で頬を掻いた。


 扉を開けると、先に黒ぶち猫が廊下へ出て行った。ルシェ、シャーノ、ヤエの順で廊下に出る。


「ヤエ」そう呼び止められて、ヤエは顔だけ部屋に出した。


「今度来るときは旦那さんね」


 言い終わる前に、扉は閉められていた。

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