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デイ・ノートの魔女  作者: 志茂川こるこる
1章:鳩をあなたに
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「荷物はもう…

「荷物はもう届いてるよ」口ひげの衛兵は、砂を払いながらぶっきらぼうに言う。「後ろの二人もか?」


「ええ、弟子だから」


「へえ、とうとう諦めたんですかい」


 ヤエは視線を逸らして苦笑いをする。黒ぶち猫が足元へ座り込んだ。


「私は反抗期だから」そう言って、ヤエはチラリと若い衛兵を見た「…大丈夫そうね」


「あ、ええ、大丈夫です…ええと」


「私は魔女四代目。それじゃ、通らせてもらいます」

 

「魔女…」


 そうつぶやいて、若い衛兵はヤエが進むのを見送る。ヤエはシャーノとルシェを手招きして、裏門をくぐった。二人も後を追う。黒ぶち猫も付いて行った。



 裏門の先は広場だった。衛兵がチラホラと警備に付いている。城壁がぐるりと城の奥まで伸びて長い影を落とし、肌寒さが残っていた。右側に兵舎と厨房があり、左側は小さな畑が幾つか並んでいた。ヤエは兵舎の方へ進んでいく。


 兵舎の影に通路があって、そのまま城の裏庭まで入り込んでいく。裏庭に面した中廊下へ入ると、城へ続く大きな扉が見えた。ここにも衛兵が一人立っていて、じろりとこちらを睨む。ヤエは気にせず扉を開けて進んでいく。シャーノとルシェはチラリと衛兵を見上げながら、城に入った。衛兵はジロジロと二人を眺めていたが、特に止められることもなかった。


 そうして、朝日が差す長い廊下を通り、階段を登って2階へ上がる。ヤエは勝手知ったる他人の家といった体だった。次々と角を曲がっていくと、部屋に囲まれた廊下の奥に、見慣れた包みが山ほど詰んであった。くらい廊下の奥の扉にだけ、長い楼台が立ててあった。蝋燭の火が揺らめいている。



 その奥の部屋へ向かう時だけ、ヤエはゆっくりと歩いた。ルシェとシャーノも後に続く。扉までもう少しというところで、急にヤエは立ち止まって首を傾げ、右手の人差し指で頬を掻いた。

 

「ここに三代目様が?」ルシェは訪ねた。


「そうよ。ここでいつも実験をしてる」ヤエは振り返って、答えた。暗い廊下のせいか顔色が悪く見える。


「何かあるのですか?」心配そうにシャーノも訪ねる。ヤエは少し引きつった笑顔になった。釣られてシャーノも笑顔を作ったが、似たようなものになった。


「まぁ、あんまりね」ヤエはまた頬を掻いた。「7年ぶりだし…正直苦手なんだよね」


 ヤエは見るからに憂鬱そうだった。どうにも乗り気ではないらしい。シャーノとルシェは顔を見合わせた。黒ぶち猫が退屈そうにあくびをしている。


「ルシェ、シャーノ。私はひとまず見ているから、ノックをして入りなさい」必要以上にヒソヒソ声で、ヤエはささやいた。「大丈夫。取って食われるようなことはないわ。ちょっとびっくりするだろうけれど」


「わかりました」ルシェは頷き、シャーノもそれに続いた。ヤエと黒ぶち猫は衣擦れも足音も立てずにゆっくりと下がり、壁へもたれかかって腕組みをした。


 ルシェとシャーノはそんな師匠をあまり見たことがないので、振り向いて不思議そうに見ていた。ヤエは少し青い顔でニコリと笑って、扉に目を向けた。行け、ということらしい。



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