ヤエは弟子二人を…
ヤエは弟子二人を先頭にして、城壁の裏口へと近づいていった。裏口の前に守衛が二人立っていて、一人はまだ若そうだった。眠そうにあくびをしている。もう一人は口ひげを生やしていて、精悍な顔つきだった。
若い方の守衛が、近づいてくるこちらに気付いた。彼は口に当てていた片手を腰に当て直し、もう片方の手で槍を持った。もう一人の方はチラリとこちらを見て、そのまま周囲を見渡した。3人と1匹はそのまま近づいていく。ルシェは振り返ってヤエを見た。ヤエはニコニコしながら顎をしゃくる。そのまま行け、ということらしい。
無言でどんどん進んでくる一向に対し、若い守衛は戸惑いながら両手で槍を構えた。隣の同僚を横目に見て合図を送るが、当の同僚はそっぽを向いていてそれに答えない。シャーノとルシェは怖気づいて何度も振り返るが、ヤエに背中を押されて前に進むしか無い。
「止まれ!」しびれを切らして守衛が鋭く言った。弟子二人と槍の穂先との間は4歩もない。もう一人の守衛もゆっくりとこちらを向いた。
ヤエは二人の背中を押すのをやめて、二人の間に入った。
「止まりました」ニコニコしながらヤエは言う。
「その荷物はなんだ」槍を構えたまま、彼はゆっくりと聞いた。
「何かしらね」ヤエは答える。
「それを置いて、中身を見せろ」
「城に用があるのだけれど」
「置け!」
「はいはい」ヤエは肩をすくめて、背負った荷物を下ろした。守衛はチラチラと隣りの同僚を見たが、同僚は全く相手にしていない。
「中身を見せろ」彼は諦めて、ヤエに槍の穂先をしっかりと向ける。
「要件は聞いてくれないのかしら」膝を曲げて、ヤエは上目遣いに訪ねた。
「見せろと言っている!」一歩踏み込んで、彼はヤエを脅した。
その踏み込んだ足が地面に付く時にはもう、ヤエは穂先の面を左手の甲でいなして、内側に入り込んでいた。
踏み込まれた右足を払い、
左手で太刀打ちを掴んで引っ張り、
倒れ込んで来る相手の頭を右手で軽く押す。
若い守衛は左肩から地面に倒れる。
ヤエはそのまま槍を奪う。
口ひげの守衛が剣を振り上げた。
左手で太刀打ちを握った持ったまま、
一歩だけ右足を下げ、
袈裟斬りに来る刃へ穂先を当てる。
ヤエの手首を軸にして槍が回転し、
石突きが守衛の右側頭部に当たる。
右腋に左手を巻き込んで挟み、
右手で中段を掴んで押し込んで、
ヤエはそのまま口ひげの守衛を地面に倒し込んだ。
若い守衛は立ち上がろうと顔を上げたが、目の前に自分の顔が映った。ヤエが片手で槍を向けていた。ほんの少しでも場所が違えば、自ら顔に切り傷を付けるところだった。
「毎度これだから、裏口配備は皆青い顔をするんだ」口ひげの守衛は地面に座り込んで、頭を撫でた。
「見ているだけで何もしてこないと思っていたのに、斬りかかってくるなんて!」ヤエは笑って、若い守衛を起こした。
若い守衛は、口ひげの守衛とヤエを交互に見て呆気にとられている。シャーノとルシェもまた、同じようにぽかんとしていた。




