魔女一行の朝は…
魔女一行の朝は、窓から聞こえる黒ぶち猫の鳴き声から始まった。商品の買い付けと夜更かしで疲れきっていた彼女達の中で、シャーノはモソモソと布団から這い出て窓を開けた。黒ぶち猫は出て行った時と同じようにスルリと入ってきて、シャーノの足に擦り寄ってきた。
シャーノが隣のベッドを見ると、寝相の悪いヤエに捕まったルシェが寝苦しそうに汗をかいていた。旅先ではこうしてルシェが犠牲になっているが、魔女の家ではもっぱら猫がその役目だった。シャーノは足元に座りこんだ黒ぶち猫を見た。猫は大きなあくびをしていた。
そうして朝を迎え、包みにまとめた荷物を詰め込んで、まだ陽の登りきらない内に魔女一行は宿を出た。
大通りを辿るように、一本だけずれた裏道を進む。人気はなく、ヤエも髪を隠さずに包みと黒ぶち猫を運んだ。裏道からも見える大きな前門の横を通り過ぎたところで、シャーノは首を傾げてヤエを見た。
「どうしてだと思う?」ヤエはシャーノの方を見ず、尋ねられる前に聞いた。
「ええと…」シャーノは考える。「荷物が多いからですか?」
「うん」ヤエは意地悪そうに微笑む。「ちょっと惜しい」
「うーん」シャーノは唸って、また首を傾げた。そのまま隣を歩いていたルシェを見たが、居なかった。
シャーノが後ろを振り向くと、少し離れたところで足元を見ながらトボトボと歩いているのを見つけた。そのまま立ち止まって、ルシェが追いつくのを待った。
ルシェは足元を見て歩いていたせいで、シャーノの靴がこちらを向いて現れた時は少し驚いて立ち止まってしまった。顔を上げると、シャーノが心配そうに覗きこんでいる。ヤエは変わらず歩いて行っていたが、チラリとこちらを見て、前を向いて進んで行ってしまう。
「大丈夫?」シャーノは尋ねた。
ルシェは瞬きを2回ほどして、少し迷って、はにかんだ。
「えっと、なんだか、静かだなあって」ルシェはあたりを見回して、寂しそうに笑った。
「よくわからないけど」とシャーノは言って、ルシェが続けて何か言おうとする前に、ルシェの後ろに回り込んだ。「一緒に考えて欲しいんだ。師匠はずっとニコニコ笑ってて教えてくれないし…」
シャーノは、ルシェが背負っている荷物にぶら下がっている重たい包みを外して担ぎ、もう片方の手で自分の頭をガシガシと掻いた。
「私も、わからないかも」ルシェはニコリと笑った。「荷物、ありがとう。もう大丈夫だから」
ん、とシャーノも笑って、二人は早足でヤエを追いかけた。そうしてヤエに追いついて、静かな朝の裏通りに、3つの足音がバラバラに向かう。
ヤエは振り向いて、二人を迎えた。「もうすぐ答えが分かる場所に着いてしまうよ」
城壁は前門から伸びて大通りを遮り、裏通りまで伸びてきていた。城を中心に半円弧を描いていて、その壁を追うように進んでいく。
ルシェはそれを眺めて、ヤエの方を見た。「裏口があるんですね?」
「ええ、あるわ」ヤエは答える。「見えてきた。あそこから入るの」
城壁の裏口には、兵士が3人ほど立っていた。
「前門と裏門とでは異なる点がある」
そう言って、ヤエはニコリと笑った。




