そうしてなだらかな丘を…
そうしてなだらかな丘を幾つか昇り降りしていくうちに、とうとう目的地に着いた。予定では4日で着く道のりだったが、3日めの夕暮れを迎えるときにはノート・ロナイの城下町を囲む壁が見えていた。そのまま馬車を進めることを決めて、見立て通り夕食の頃には関所を通過して、街の中へ入ることができた。
関所を越えて人通りの少ない裏道へ入ったところで、ヤエは小窓から顔を出した。
「フランツ。いい機会だから、ここで降りて行くわ」
「おや、ここでよろしいのですか?」
「ええ、お城で泊まるのは窮屈だから」
てっきりそうするつもりだと思っていたシャーノとルシェは、瞼をパチクリさせている。
「左様ですか。では、お荷物はいかが致しましょう?」フランツは聞いた。
「そうね…鳩と大きな荷物は直接届けてもらえるかしら。小物や手提げは自分たちで持って行くわね」ヤエは答える。
「かしこまりました」
フランツは御者台を降り、ヤエは小窓を閉めた。黒ぶち猫が起きて伸びをしている。
「それじゃあ、街へ出ます。大通りの屋台でちょっとした買い出しをしていくから、はぐれないように」
弟子らしく返事をして、二人は馬車の扉を開けた。ヤエは目立つ白い髮を隠すため、フワフワした大きな帽子を耳元まで被って髪ごと外套を羽織った。それでも背が高いので目立ってしまうし、ルシェとシャーノと黒ぶち猫もいるので大道芸人っぽく見えなくもない。鍔広帽子のフランツと鳩もいればばっちりだっただろう。
「ありがとう。それじゃあ、よろしくお願いします」
「ええ、お任せください。四代目様もお気をつけて」
ルシェとシャーノもお礼を言い、短い挨拶を交わした。フランツはニコリと笑ってお辞儀をし、鍔広帽子をかぶり直して裏通りの奥へと馬を進めた。
夜の静けさに馬車の進む音が薄らいで、大通りの賑やかさが流れ込んできた。
裏通りを抜けて大通りへ出た。しっかりと舗装された石畳と頑丈そうな木造の建物は街の発展を物語っていて、通りに面して立ち並ぶ屋台の質素さが逆に印象的だった。屋台は頻繁に仕舞うことができるように作られていると、ヤエは教えた。それは見た目通り、大きめのテントのようなもので簡素な木枠に丈夫な布が被せられている。
各々の店先でランプをぶら下げているため、街灯を必要としないほどに通りは明るかった。
果物の切り売りや魚の串焼きを買食いしつつ歩く。屋台によって品物は多種多様だったが、屋台の後ろにある本店はほとんど閉められていた。どうやら時間帯によって売り場が変わるらしい。本店で営んでいる商品と異なるものも売っているようで、衣類を扱う店の間で工芸品を売っていたりもしていた。
途中でルシェが黒ぶち猫を抱き上げて運ぶことになる以外は、至って普通の買い出しになった。それでも初めて来る城下町に二人は浮き足立っていたし、屋台や通りの熱気にすこし当てられたことで疲れが出たのだろう。買い出しを終えて膨らんだかばんを背に、宿へ着く頃にはへとへとになっていた。




